ミッドシップ!!

「へー、クルマ持ってるんだー。ねえねえ、どんなのに乗ってるのー?」

 

「えーとね、2人乗りなんだけど、」

 

「2人乗りなの? 」

 

「そう。それでね、エンジンがミッドシップでね」

 

ミッドシップってなに?」

 

「大雑把にいうとエンジンが後ろ側についてて、」

 

「うんうん」

 

「スポーツカーなんかミッドシップなんだけどさ」

 

「えー! すごーい! ねえ、今度乗せてよ!」

 

「……乗りたい? 本当に?」

 

「うん! 乗せて乗せて!」

 

「ガッカリしない?」

 

「うん! だって、2人乗りで、スポーツカーと同じなんでしょ?」

 

「まあそうだけど……」

 

「じゃあ、今度の日曜日にね!」

 

 

日曜日。

 

 

待ち合わせ場所にやってきたのは、

 

ミッドシップで2人乗りの

 

ホンダ・アクティ、軽トラック。

 

 

「……誰がスポーツカーだって言った?」

 

 

神の住まう島

 本島から少し外れた沖合に、小さな島があった。

 この島は、神様の住まう島。

 太古に2人の神様が降り立った場所。

 その島の真ん中、野原にぽつんとある石に、”祖“は1人腰掛けて空を見上げていた。

 ”祖“は、人間のことを考えた。

 それにしても人間は、しぶといものだ。

 あれだけこっぴどい『永遠の不作』を乗り切り、何かよく分からない作物を実験室で作り。

 でも、やったー人間の本性は、『永遠の不作』のときの、自分さえ良ければいい、他人のことなどお構い無しの、それなんだろう。誰よりも優れていることを望み、力に魅せられ他人を下に見ることを望むんだろう。

 ”祖“はそんなことを考えた。

 その度に、あの人間が頭に浮かんだ。

「……ハルサーめ」

 やったー人間はしぶとい。

 やったー人間は諦めが悪い。

 あのハルサーと同じじゃないか。まったく、わじわじーする。

 

 神の住まう島に、木の葉が一枚舞っていた。はるばる海を渡り、この島に辿り着いた。木の葉はヒラヒラと風に舞い、……よりによって、”祖“の顔に貼り付いた。

 

 “祖”は木の葉をつまみ上げて、しげしげと眺めた。

「……ぬー」“祖”は言った。

「……ぬー」木の葉も言った。

「ぬーやが」

「……」

「ぬーやが!」

「……逆さまだから、下におろして。お願い」

 

 暇だから何か話せと、“祖”は木の葉に言った。木の葉は、見たもの聞いたもの、いろいろなことを話した。小さな御嶽で会った、喧嘩っ早い奴と理屈っぽい奴の話を聞いて、“祖”は少しだけ懐かしそうな顔をした。

 

 木の葉は、出会ったハルサーの話をした。“祖”としては聞きたくもない話だが、何か話せと言った手前、苦々しく聞いた。

「あのハルサーはしつこくて参った。最後はうまく丸め込まれた気がするんだが、気分は悪くない、悪くないです」

「ハルサーか。あの背の高いのか」

「いえ? ちっぴるーですよ?」

「白いのじゃないの?」

「いえ、ピンクっぽいのですよ?」

ふうん。まあ、いいか。

 

 しばらくここにいてもいいですかと、木の葉は“祖”に願い出た。

 

 ゆきぱいかじぬ、吹きゆまでぃ

 

 好きにするとよい。

 一緒に花の育つのでも眺めていよう。

 うーじの伸びる音を、聞いていよう。

 

 本島から少し外れた沖合に、小さな島があった。

 この島は、神様の住まう島。

 そして、”祖“の住まう島。

 そして、木の葉が居候をする島。

 良き南風が、吹くまで。

ふっとさんのくせにえらそうにかたっている

ちょっとばかりどうでもいいお話を。

 

こう、ダァーッと文章を書いているときに、なにかザラついた感じを受ける時はありませんか? なんて言うんでしょうかね、逆立った棘に引っかかるような。大概、書いた文章を読み返したときに語感がよろしくなかったりするんですよ。

無理やり突っ込んだ言葉とか、あまり自分で使ったこともない言葉とか、どっかから借りてきた言葉とか。あ、あと自分で勝手に作った造語みたいなのとかですね。

人によりけりなんでしょうけど、そういうイヤな手触りの文章はたぶんダメなのかなと思います。人物の台詞に当たるところなら尚更。読んで心地の良いものに変更したりして。さらっと流れるようだといいなぁ。

 

あくまでも、主観です。

 

 

3. Patriot

「ああそうだよ。俺がやった。間違いない。でもなあ警部さん、それに何の問題があるんだ? あいつら違法移民はこの街にやってきて、俺たちの仕事を奪っていった。通りにどれだけ仕事にあぶれた連中がいるか、警部さんだってわかってるんだろう?

「警部さん、俺の親父はね、あいつらに仕事を奪われたようなもんだったんだよ。大して蓄えもないまま仕事をクビになって、学が無いから就けそうな仕事だって限られててな。その仕事だって奴ら移民が安い賃金でも文句言わずにやっちまう。そうすりゃ雇う方だって安い賃金しか出さなくなるさ。

「親父の歳も歳だ、そう仕事もあるわけじゃない、あっても安い賃金だ。そんな中で、親父は死んでいったよ。

「だからね、俺は親父から仕事を、人生を奪っていった違法移民が大っ嫌いなんだよ。この国から一人もいなくなってしまえばいいと思っているんだよ。それで、この間の暴動のときにあいつを殴りつけてやった。俺たちに囲まれておろおろしてやがったからな、あいつらの立場、ってのを分からせてやろうと思ったんだよ」

 

― 彼はな。亡くなったよ。君は晴れて”殺人犯”に格上げだ。

 

「そうか、死んだのか。でもあれだ、これで仕事にあぶれている誰かがやつの仕事にありつけるんじゃないのか。そうだろ? 警部さん」

 

―これはお前の部屋から出てきたものだ。この写真に見覚えは?

 

「ああ、もうずいぶん昔に旅行をした時のものだな。この時はまだ、俺たちの国も、奴らの国もこんな深刻なことになっちゃいなかったな。もっとも、ただ気付いていないだけだったかもしれないけどな」

 

―ここに写っている少年、彼はお前の友達か?

 

「ここの街で知り合った子だ。いろんな話をしたのは覚えているな。料理人になりたい、って言ってたかな。ただ、それだけだよ。俺はもう次の日にはバスに乗って次の街へ向かった。警部さん、なんでそんな世間話をするんだ?」

 

―お前が ”殺した”彼、な。難民として正式にこの国に来ていたんだよ。違法なんかじゃない。ここに入国当時の調書がある。お前も知ってるだろう? テイラー上院議員が移民局にいたころに担当した少年だった。

―彼は雇われて仕事をしていたんじゃない。彼の国の料理を、屋台で出していた。ささやかだけど、自分で居場所を見つけていた。お前たちの仕事なんか奪っちゃいなかったんだよ。

 

「でも、奴らは! 移民共は!」

 

―『子羊の肉と香辛料、刻んだタマネギ。一掴みのレーズン。ほんの少しの塩。あとは、サフラン。これだけは忘れちゃダメなんだ』……聞き覚えはないか? きっとお前は知っているはずだ。

 

「……」

 

―もう意識も定かでないときにな、彼がずっとうわ言のように言っていた。テイラー上院議員がな、これを聞いたときに、人目も憚らずに泣いていたよ。

 

「知っている。俺はその言葉を知っている。

 まさか。……教えてくれ、まさか俺は! 俺が殺しちまった彼は!」

 

―ああ、カマルだ。

 

彼の名は、カマルだ。

 

2. Exiles

「お待たせしました、私は移民局のマシュー・テイラーと言います。あなたの担当になりました。どうぞ気軽にテイラー、と呼んでください。

「これから難民申請の手続きを行うにあたって、いくつか伺っていきます。まずはここに至るまでの経緯を聞かせてくれますか」

 

 爆弾が、落ちてきたんです。いくつも、いくつも。街の人たちがあちこちに逃げ回りました。誰が爆弾を落としていったのか、全くわかりませんでした。

 それから、毎日のように、爆弾が落ちてきました。どの建物も、安全ではありませんでした。

 いつか止むと思っていたんです。私たちは街で一番丈夫な建物の中で待ちました。

 でもそこですら安全ではなかったんです。なにか強い爆弾が当たったんだ、と誰かが言いました。建物は崩れてしまいました。母さんはその建物の下です。もう掘り出すこともできないほどの瓦礫でした。

 誰かが、軍がここへ向かっている、と言ってました。助けにきてくれたんだと思いました。

 父さんがぼくと弟に、今すぐこの街から逃げなさい、と言いました。なんのことだか分かりませんでした。軍の人たちが助けにきてくれているのに。なんで逃げるのと聞いたら、あの軍人たちはこの街の人を捕まえに来た、お前たちは何も知らないでいいから、とにかく逃げなさい、となりの国まで行くんだ、と言って、ぼくたちを兵隊の来ない街はずれまで連れて行ってくれました。

 

 それから、ぼくたちは逃げていったんです。

 ……ここから先はあまり話したくありません。ぼくは弟を守るためならどんなことだって我慢をしたんです……。

 でも弟は途中、頼った人に連れていかれてしまいました。そしてぼくだけがここまでたどり着いて、ねえ、弟はここに来ていないですか? 教えてください。

 

「話してくれてありがとう。つらい話をさせてしまいましたね。

 でももう大丈夫です。あなたは自由だ、自由になれたんですよ」

 

 ……自由、ってなんですか? 街の人たちが言っていた、民主化、ってなんですか?

 ぼくはただいつも通りに、父と母と、弟たちと暮らしていきたかっただけなんです。アザーンの呼びかけで礼拝に行き、それから、いつか自分の店を持つために料理人としての修行、終わったら家に戻って家族揃っての食事。ただそんな毎日を過ごしていきたかっただけなんです。

 

「……そうか、そうだよね。

そうだ、この紙を落とさなかったかい? これは、……何かのメモ?」

 

 はい。母さんが書いてくれた、ピラウの作り方です。でももうこのメモがなくても大丈夫なんです。すっかり覚えてしまいました。

子羊の肉と香辛料、刻んだタマネギ。一掴みのレーズン。ほんの少しの塩。あとは、サフラン。これだけは忘れちゃダメ

 でもこれは、母さんが残してくれたものだから、すみません、返してもらってもいいですか?

 

「もちろんだよ。

最後になってしまったけれど、君の名前を教えてくれますか?」

 

名前は、カマル。

 

ぼくの名前は、カマルです。

 

 

1. Mosque

 夜の礼拝が終わり、モスクには静けさが戻った。人々は日没後のささやかな夕食を楽しみに各々の家へと散っていった。

 私は、ひと気のなくなったモスクの中へと入っていった。勿論、導師の許可はいただいている。

 ラマダン月の15日目、満月は雲ひとつない深い藍の幕間に輝き、ミナレットはその光を細長く遮って一筋の影を落としていた。それに余る月影の恩恵は、モスクの中を、そしてその壁を明るく照らし出していた。

 壁面には、細密なアラベスク模様が天井をも覆わんばかりに輝いている。藍、青、空色、その中間色たち。それらがモザイクとなり、草の意匠となり、秩序を持ち、荘厳さを纏っていた。この見事な壁画を前に、私は暫し時を忘れ見入っていた。尤も導師は厳しい顔をしてこちらを睨んでいたが。

 ふと気がつくと、一人の少年が同じように壁画を見つめていた。私が見つめているのに気がつくと、少年ははにかんだような笑顔になった。

 カマルと名乗ったその少年と私は、片言ながら暫し話をした。彼の父母のこと、兄弟のこと。私が生まれた街や私が見てきた遠い国のこと。遠く、導師の咳払いが聞こえた気がしたが、それはまあどうでもいい。

 カマルは将来、料理人になりたいと言っていた。母さんが作ってくれる、食べた人誰もが幸せになるようなピラウを皆んなに食べさせたい、と。

 子羊の肉と香辛料、刻んだタマネギ。一掴みのレーズン。ほんの少しの塩。あとは、サフラン。これだけは忘れちゃダメなんだ。そして皆んなライスと一緒に炊き上げるんだよ。

 カマルが目を輝かせながら教えてくれたレシピを頭の中で反復しながら、どのような味だろうと想像をする。そしてささやかながらも笑顔の絶えないカマルの食卓を思う。

 そろそろうちに帰るというカマルを見送り、私もモスクを後にした。ラマダンが明けたらうちに来て、と誘われたのだが。明後日にはきっと隣国のビザが下り、そのまま西へ向かう乗り合いバスに揺られているだろう。ラマダン明けには、どこの街にいるだろうか。その時には、ピラウで祝おう。

 月明かりが照らす道を、宿を目指し歩き始めた。