ゲームの時間


司会:「”神経衰弱ポーカー”、開始しましょう。それでは先攻から」

先攻の男、任意に2枚の写真を選ぶ。1枚目には背広姿の30代男性、2枚目にはちょっとチャラい男性(色黒)。

先攻:「……同年齢、彼女アリ、同棲中」
司会:「ジャッジ、スリーペア! それでは後攻」

後攻の男、同様に2枚引く。1枚目はベンチャー企業の社長風男性、2枚目は40代既婚女性風。

後攻:「出身高校が一緒、両親が健在、バツイチ、……総武線沿線在住」
司会:「ジャッジ、スリーペア! スリーペア同士なので、手役から先攻に1ポイントです」
司会:「それでは第2回戦。先攻どうぞ」

1枚目は大学生風女性、2枚目は70代女性、農家風。

先攻:「……、女性、あと、ないです」
司会:「ジャッジ、ワンペア! それでは後攻どうぞ」

1枚目、40代会社員。2枚目、30代OL。

後攻:「……同じ企業に勤めてる、同じ部署、あと、不倫中」
司会:「ジャッジ、スリーペア! 後攻に2ポイントです」

司会:「それでは最後のセッションです。どうぞ」

1枚目は20代後半女性、ちょっと地味目。2枚目は女子高生。

先攻:「下の名前が一緒、横浜市在住、彼氏無し」
司会:「ジャッジ、ツーペア! 1枚目は彼氏アリです。 それでは後攻どうぞ」

1枚目、10歳小学生男子。2枚目、後攻のその人。

後攻:「えーっ、東京都在住、両親と同居、あと……」
司会:「あと、何ですか?」
後攻:「あと……、あと……、ど、ど、童貞!」
司会:「ジャッジ、ツーペア! 1枚目、童貞ではありません!」

先攻:「えっ!」
後攻:「えっ!」

司会:「手役から先攻に1ポイント! 今回は引き分けとなります」
司会:「それではまた次回お会いしましょう! サヨウナラ!」

 

神経衰弱ポーカー 
  神経衰弱ポーカーは、任意に引いた2枚の写真に写った人物のプロファイルから
  共通する内容を推理して列挙、その数の多少で勝負をするゲームです。
  共通するプロファイルについてはジャッジが審査し、合否を決めます。
  共通したプロファイル数が多い方が勝ちとなり、相手のプロファイル数との差が
  ポイントとなります。同数の場合はプロファイルの内容(手役)によって勝敗を
  決め、勝った方に1ポイント入ります。
  1回の勝負をセッションと呼び、3セッションで1ゲームです。
民明書房 「楽しいテーブルゲーム」)



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Including
〈 神経衰弱 〉

ボディショット

「お兄さん、もう一杯行こー!」
 ビアシンハーがまた一本開けられる。お兄さん、と呼ばれた男はまんざらでもなさそうに瓶ごと口につける。
「ただ飲むだけじゃつまらないな。なあ、口移しで飲ませてくれよ」
 だいぶ酔いが回ってきたのか、男は下品な冗談を口にする。他に客もいない。羽目を外してもいいだろうさ。それにこの後は2人でホテルへ行く、ってことになっている。
「オッケー。じゃ飲ませてあげるねー。ゼンブ飲んでよー」
 女はケラケラと笑い、男の手から瓶を奪い取りその中身を口に含んだ。

 

 首都クルンテープ。とあるストリートの、そのさらに奥へ至るソイ(脇道)。これと言って流行らないビアバーが2,3件。表通りのゴーゴーバーでペイバー(店外デートのこと)した女の子と、呑み直そう、ということになって連れてこられたのだ。なんとも場末な雰囲気が不気味であったが、思いのほか店員たちが若く、皆可愛い。店主の趣味がいいな、などと思いつつ酒宴を開始したのだ。


テキーラ行こー、テキーラ!」
 だいぶ酔いも回ったころ、女が言った。そして運ばれてくるショットグラス、塩、マナオと呼ばれるライム。女は男の首に手をまわし、口を耳元に寄せて言った。
「ボディショットで、行く?」
「アナタだったら、いいヨ」
 女の胸が男の胸に押し付けられる。その肉感的な感触と酔いが、男の判断を短絡的にさせた。
 妖しい笑みを浮かべて、女は胸をはだけた。マナオをひと搾り、そして塩をひとつまみ盛る。男はそれを舌で掬い、ショットグラスの中身を一気に飲み干した。喉を焼いてもまだ足らず、テキーラは胃の中で燃え続けた。だが心地よい。狂乱の夜は始まったばかりだ。

 

 ボディショットを幾度繰り返したろうか。男はもう立ち上がるのもままならないほどに酔っていた。女が囁いた。
「お兄さん、お兄さんモテるから、いっぱい女のコ泣かしタでしょ」
「ぁあぁ、泣かしぃーた、かなぁ」
「あたし知ってるヨ。ブア、レック、……ノーイ」
「ノーイ……、あぁ、ノーイなぁ! あれはいい子だったなぁ。他のオンナに乗り換えちまったけど、どうしてるかねぇぇ」
 気が付けば店の中に人気はなく、男と女、二人が残るのみ。
「もう一杯、ボディショット行こ? これでサイゴ!」
「よーし! 飲んだらホテル行こうぜぃ!」
 女はショットグラスを男に渡し、男の耳元で言った。
「ノーイね、死んだヨ。自殺したの。わたしの大事な大事ないもうとダッタ」
 女はショットグラスの中身を男の顔にかけた。そしてボトルを掴むとその中身をさらに男にかけた。
 スピリタス。アルコール度数96度。それが女の手にしているボトルの正体。
 
 「最期の、ボディショット、ョ」
 女は手早くマッチを擦った。


 

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Including
〈 繰り返し 〉
〈 アルコール度数 〉

「これで成体なんですって?」
 足元に映し出されたドローンからの画像のおよそど真ん中、ぶよん、とした巨大な物体をしげしげと眺めながら、彼女がポツリと漏らす。その見た目は甲虫の幼生そのまま、青白くぷくぷくとした、まあいわゆる芋虫、という奴だ。ただ問題は、ここがちょっと特別な海辺であること。すぐ近くに原子力発電所が控えている。そして一番の問題は、この芋虫は、原発を圧し潰せるくらいに巨大だ、ということ。


「よりによって、なんでこんなところに出てきてくれるかなぁ」
 対策本部、何て名前をつけられて召集された我々としては、愚痴の一つも出ようってもんだ。排除する。どうやって?
 生物学者の先生たちの見解は先ほど彼女が漏らした通り。どうやらこいつは昆虫の類で、これで成体であろう、ということ。こいつが蛹化して成虫になり、わしわしと歩き回らないだけでもましだろうか。だがしかし、何の解決にもなってはいない。

 

 自衛隊による駆除、米軍との共同作戦による排除。それはさすがに難しい。原発がなければそれでいいが、こんな至近距離ではさすがに内に向けても対外的にもいろいろまずいだろう。それに近くて遠いお国の方々が、脅威の排除名目で花火なんぞ上げようとしないように牽制をしておいてもらわないといけない。
 そのまんま地中などに帰って行っていただきたいのだが、さすがにそれはまずい。ある意味もっとまずい。海に帰っていくか、いやどう見てもこいつは海洋生物じゃないから無理だろう。
 なので、そっとこいつの息の根を止めて、原発のほうへ動いていかないようにする。それが一番現実的な方法だろう。死体の処理はまた後で考えるしかない。ではどうやって? そうして考えは堂々巡りになる。

 

「このまま、じっとしていてくれないかしら」
 刹那、芋虫が半身を起こす。幸い原発とは逆の方向を向いているのが幸いだが。耳鳴りのような音が響く。

 キィィィィィィィ!

 目の前が眩む。
 次に、極彩色の壁が目の前に現れ、迫りくる。
 目の前が極彩色に溢れ、色を失った。

 

 

 いま、我々の目の前には原発。そしてその脇には、何か巨大なものがあったかのように、木々が圧し倒されている。
 なぜ我々はここにいるんだ? あの木々が押し倒されているところには何があったんだ? 誰一人としてそれを説明できるものはいなかった。そもそもなんで生物学者がここにいるんだろうか。ここにいる皆が狐につままれたような心持だ。何もかもが不可解。

 

 

 どこかの誰かの心の奥底。
 一匹の蟲が巣食うていた。
 蟲は眠り、現の夢を見る。
 宿主の心を依り代に、
 蟲は眠っていた。
 夢は現、現は幻。

 


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Including
ネオテニー
〈 夢幻 〉

不可解なファイル

「何ですかね、このファイル」
「なににも紐づいてないんだよな、こいつ」
「さっき、テキストエディタで開いてみたんですけど」
「どうだった?」
「さっぱりわからないです。なにかバイナリみたいなんですが」
「でも実行はできないんだろ」
「とてもとても」
「何かウィルスなんじゃないのか」
「これ単体では問題ないみたいですよ」
「一緒にあったテキストは何て書いてあった?」
「ただ一言、”解凍しろ”と」
「なんだそりゃ」
「どう解釈すればいいんですかね」
「レンジに放り込むか?」
「馬鹿言ってないでくださいよ」
「どうしますかね」
「どうしたもんかね」


西暦20XX年。
lzhフォーマットがロストテクノロジーとなった世界。



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Including
〈 解凍 〉
〈 解釈 〉
〈 不可解 〉

疾る -はしる- その2

「……なんだかね、いるんだかいないんだか分らないんですよね」
「……振った仕事はきっちりやってくれてるんだけどね」
「……でもそれ以上でも以下でもないんだよな」
「……飲み会誘っても来たためしないし」
「……なんかぼんやりしてるよね、いろいろと」
 会社の同僚はいろいろ言っているが、なんで彼が飲み会に来ないのかを知っている。毎夜毎夜、バイクで走りに行っているのだ。それもただのツーリングじゃない。


 彼を二度見かけたことがある。

 

 一度目は夜の第三京浜、保土谷のパーキングエリアで。最初は見間違いかと思った。会社での彼しか知らないので、まさか、今目の前で黒のレーシングスーツに身を包んでコーヒーを飲んでいる人が同一人物だとは気が付かなかった。声を掛けようかとも思ったんだが、そんな雰囲気ではない。
 見ていると、先ほどから大声で自らのバイク自慢をしている男の方へ近寄って行って、何やら話し始めた。不穏な空気であるのは、自慢男の顔色で一目瞭然だった。明らかに怒りの色が浮かんでいた。そして彼が親指で一台のバイクを指したとき、自慢男の顔に勝ち誇ったような笑みが浮かんだ。指した先にあったのは、あまりに武骨な年代物の一台。それはバイクに詳しくない私でもわかる。
 しばらくすると、自慢男と彼がそれぞれのバイクに跨り、パーキングエリアを出ていった。バトルを吹っかけたんだ、あの人が! 同僚たちの吹聴した先入観なんて、すべて吹き飛んだ瞬間だった。

 

 二度目は、所用で盛岡に行ったとき。少し時間があったので、美味しい珈琲が飲めるという評判の喫茶店へ出向いていった。店に入ると、あの第三京浜で見かけた黒のレーシングスーツがカウンターに座って珈琲を飲んでいたのだ。心臓が止まる思いがした。なんでこんなところにいるんだ?
「こんにちは、どうしたんですか?」
 さすがに話しかけずにはいられなかった。レーシングスーツ、ってことはバイクで来たんだよな。まさかこの格好で新幹線に乗ってくるわけは。
「よう、君か。珍しいところで会うな」
 彼はちょっと照れくさそうに挨拶をし、そして続けた。
「ここの珈琲が美味しいっていうからさ、飲みに来たんだ」
「いやちょっと待ってください、その恰好、バイクで来たんですか?」
「うん? よく分かったね。会社では内緒にしてたんだけど」
 いやさすがに分かりますって。
 それから私は、堰を切ったように先日の第三京浜で見かけたことを話し始めた。その姿があまりに意外だったことも含めて。そして、気になっていることを聞いた。
「あの日、あいつに勝ったんですか?」
 彼は、ただ満面の笑みを浮かべた。

「ご馳走様、コーヒー美味しかったよ」
 とだけ店の人に残して彼は店を後にした。これから帰る、って。今は日曜の午後3時、盛岡から東京まで500㎞ちょっと。え? ……とんでもない人だ。


 そして会社では、いつもの彼だ。昼行燈よろしく、いるのかいないのか分からない。私は彼の所へそっと近寄って行って、一枚の写真を彼の机に置いた。写真には一台のバイク。中古。不人気。おかげで安かった。このために免許も取った。そして一文加えた。

”買いました。今度走りに行きましょう”

 彼はその写真を表情一つ変えずに眺め、裏にボールペンで走り書きをした。

”ようこそ、こちら側へ!”

 


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Including
〈 昼行灯 〉
〈 先入観 〉

〈 無骨 〉

飛火野

一の鳥居から飛火野を抜け、春日大社の本殿へ参る。
君と幾度か通った道。
帰り道は二の鳥居から脇へ、囁きの小径へと歩を進める。
馬酔木の森の密やかなるを、互いの息吹の感じるほどに肩を寄せ歩く。
それも今日が最後、いつになく二人押し黙り。
この道の果てる事無きを望む僕と沈黙に圧し潰されそうな君と。
この束の間、今や通わぬ心を恨めしくも愛おしく思う。

 

ふと思う。
何度目に通った頃からだろうか。
僕ら二人が寄り添い歩いているふりをしていたのは。
鹿苑より鹿の音響くを、上の空に聞く。
互いに憎んではいない、と信じたい。
ただすれ違い、離れていっただけだと。
元の他人に戻るのだ、ただそれだけだ。

 

だがせめて、この小径の終わるまで。
離れた心の穂を拾い集めさせてくれ。
人の心のまよい木の、馬酔木の森の抜けるまで。



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Including
〈 息吹 〉
アセビ(馬酔木) 〉
〈 つかぬ間 〉

遺構

こちらです。足元に気を付けてください」
 道案内のハッサンに導かれて通された小さな部屋は白い大理石が敷き詰められていたが、ただ2か所だけ黒の大きな御影石となって、そこにこの部屋の主が眠っていることを暗示していた。一枚の御影石の元にはほぼ等身大と思われる彫像があり、慈しみの表情を浮かべているように見える。その表情は神々しく、何人も汚すことができない、そういった雰囲気をたたえていた。
詩編の通りだ。間違いない、ここがそうだよ」
 私は興奮を隠しきれず、ひとり呟く。
「本当に詩編の通りだとしたら、」
 相棒のロバートソンが、あまり関心もなさそうに話しかける。
「財宝の類は当てにできないね。なにせ、王は『財産のなにもいらないと』民の命乞いをしたんだからね」
「そうなるね。だがこれで、この辺りに当時の宮殿かそれに類する遺構が眠っている可能性が出てきた。それだけでも価値があると思わないか?」
「ふん。僕にとっての関心事は、この調査が割に合うかどうか、だけだよ。今のところ大赤字だ。スポンサーになんて説明しようか頭が痛いよ」
 ロバートソンの言うことも分かる。しかし私はこの発見の興奮に既に我を忘れていた。
「この彫像だけでも持って帰れば、スポンサーに申し訳が立つだろう。それで次の大規模調査への渡りをつけられないかな」
「おいおい、これを持ち出すつもりか? 『盗人さえも持ち去ることをためらった』んだぞ?」
「考古学的見地からも美術的見地からも、これは人類の財産とすべきだよ。それにこれは我々の成果物だ。持って帰ろう」

「やはりそういうことですか。像を持ち出すつもりであるなら、案内はここまでです」
 部屋の入り口に立っていたハッサンが、低いがよく通る声で言った。
「私はこれで戻ります。それでは。……そうそう、ここは試練の部屋と呼ばれています。我々とて、神聖なる王の住処にいきなり客人を通すようなことはしませんよ。それと、そこのそれ、彫像だとお思いですか?」
 おい、と私たちが声をかける隙も許さず、ハッサンは素早く部屋を出、重い石の扉を閉ざした。
 私たちのいるこの小さな部屋を闇が支配する。
「おい、ハッサン! 冗談はやめてここを開けたまえ!」
「ハッサン! おい! 早く開けるんだ!」
 私たちは口々に叫んだが、扉の向こうに届いている保証もない気がした。恐らくハッサンはもうこの場にはいないだろう。であればすることは、この扉を開けることだが、扉はあまりに重く、動く気配もない(ハッサンはどうやって閉めたのだろう?)。汗が滝のように流れる。決して暑いからだけではない。

 ……ぴし、……ぱき

彫像のあるであろう方向から何かが割れるような音が響く。灯りを、何か灯りをと、衣服を弄りオイルライターを探す。がその時、くぐもった悲鳴のような声が響く。声の主はロバートソンだ。やっとのことで見つけたライターに、数回しくじりながらも火を燈す。薄暗い灯りが照らし出したもの。彫像、いや彫像と思われたものが縦に裂け、何かが這い出たかのような粘液の跡。あたかもそれは、羽化を迎えた後の蛹の如くに。その先に、ロバートソン。が、彼の顔はすでに土気色をして、理不尽な恐怖を顔に張り付けている。
 と、その時不意に首筋に焼けた釘を突き刺されるような痛みを感じた。そしてそのまま意識が薄れていく……。



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Including
〈 道案内 〉
〈 羽化 〉
〈 汗 〉