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きみのふるさと

 彼は車の運転に夢中で、私の話すことなんてまるで聞いてない。気のない返事ばかりで、ちっとも面白くない。高速の出口からずっと走っていくと海へ出る道。風景なんて、畑ばっかり。
「……あそこの藁みたいのが積んであるところ、あれは落花生畑」
「あの大きな葉っぱが二本生えているのは、里芋畑」
 思い出したように彼が話し始めたのは、目の前の畑の説明。聞いててもあんまり面白くない。
「この辺りは赤土だからさ、田んぼには向かないんだ」
 やっぱり面白くない。ここまで聴いているのもiPhoneからじゃなくてAMラジオだし。そういう人なんだな、きっと。
「里芋の別名って知ってる?きぬかつぎって言うんだ。綺麗な呼び名だろ」
ふーん。

 畑の中にある、木の生い茂る中へ彼の車は入っていく。そこが彼の生まれた家。彼のお父さんもお母さんも、みんな快く迎えてくれた。ちょっと戸惑ってしまうくらい。
 口に合うかしら、ってお母さんが山盛りの里芋を持ってきた。これって、きぬかつぎって言うんですよね、と言ったら、お母さんがすごくうれしそうな顔をして。あら、若いのによくそんなの知ってるわねって。彼は隣で知らん顔。
 ここに来る途中、博士さんに教えてもらったんですよ、って言ったら、お父さんもお母さんももっとニコニコ顔になってた。彼は照れくさそうにビールを飲んでた。
 半分くらい皮を取ってきゅっと押すと、中身がつるんと出てくる。少し糸を引いて。だからきぬかつぎなんだ。
「来る途中、あんまり話もしなくてごめん。口の中がカラカラだったんだ」
 耳元で彼がすまなさそうにささやく。面白くなかったけど、嫌ではなかったよ。でもそうは言わないでおく。甘やかさない。
 もうしばらくしたら、彼のお嫁さんになるんだな。ウェディングドレスなんて、想像もつかない。

そしてここが、私にとってもふるさとになる。いいところだな。星がたくさん見える。