Pure Jam

 ある晴れた日の早朝。糀谷高等学校科学部にて。
「諸君。私は先日の朝食で大変に素敵なものと出会った。それは私が今までに見たこともない鮮烈な赤、嗅いだこともない香しき芳香、味わったことのない酸味を含んだ甘美さをもってトーストの脇に添えられていたのだ。なんだ、この物体は! その日からから私はこの上もない鮮烈な感動に包まれ、そして心を囚われているのだ。この、赤く甘美な物体に!」
(ジャムですね)(ジャムだよな)(ジャムだね)(イチゴジャムだ)

 

 同時刻。とある森の中。
 熱帯雨林を思わせる気温と湿度の高い空気の中、樹齢を重ねた老杉がある。その中はとうに洞となり、その終焉を間近に迎える中、その洞が小さな命の拠り所となっている。その中にただ一つ、ここにあってはならないものがあった。そのものは老杉とそれの支える大地とが蓄えた水を啜り、弱く、命を繋いでいた。

 

 糀谷高等学校科学部。
「そしてこともあろうに諸君! この赤い物体が、だ。あろうことかこのヨーグルトにも合うことを、ついに突き止めたのだ! ああ、なんという発見だ。私は至上の愛に包まれている心持ちだ!」
(ジャムだからね)(そりゃ合うだろうね)(今日帰りにラーメン食べてかね?)(いいね)

 

 森の中。
 あってはならないもの。目もよく見開かず、頼りなく歩を進め、中空を見上げる。意を決したように、かっと目を見開く。

 

 糀谷高等学校科学部。
「……であるからして諸君!これからわれわれの研究課題として、だ……」
(ジャム作るのか)(あんずジャムがいいな)(とんこつラーメン)(つけ麺な気分だな)

 

 森の中。
 あってはならないものの目が、誰かの思考と同期をする。そして共有した感覚に溢れる、鮮烈な赤、香しき芳香、酸味を含んだ甘美。
 満足げな笑みを浮かべたような。そんな気がする。そして、咆哮一つ。

 

 糀谷高等学校科学部。
 どしゃっ。
 残された衣類と拡がる赤い物体。そして静寂。

(ジャムですね)(ジャムだよな)(ジャムだね)(ラーメン食いてぇ)

 

 

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