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会議は踊る

「女子高を統一するのだ」
議長が舌っ足らずな第一声を上げた。
「私の思う古き良き女子高生を、おとなしく、おしとやかで、上品な女子高生を、取り戻す!」

ここからしばらく議長の独壇場なのでそのつもりでお付き合いください。

「古き良き女子高生を取り戻すために弊害となるものは何か? それは自由というものの誤った使い方だ。なぜ校則で制服というものが決められているのか!それは規律というものを身だしなみから学んでいくことに他ならない。それを可愛いから、という理由だけでスカートの裾を上げるとかハイソックスを短めにするとか、言語道断である。そのようなことで上品な心が生まれるか? いいや、生まれやしない。だからこそ、女子高を統一し正しき規律を育むために制服の統一を図る! セーラー服で襟には三本線ネクタイにも三本線、スカートはひざ下10㎝、踝までの三つ折りソックスに黒のストラップシューズとする!」

 場内の空気が二分される。
 何言ってんだこの人は、という比較的若手の議員達。
 ああ、また始まったよ、というちょっと摩れた古参組。
 まあどっちにしろ呆れていることに変わりはない。

 議長は続ける。また長くなるので適当にお付き合いを。

「その昔、わが出身地が生んだ偉人たちはこの日本の美しき形を作り上げた。旧態依然とした幕藩体制を打ち壊し、新たな一つの国家として生まれ変わらせたのだ。私はその気高き信念に敬意を表し、それを現代に表そうと思う。それがこの女子高の統一だ! それぞれの学校の学力はそのままで構わないが、その修身としての教育理念や制服の規定の絶対化によって美しき女子像を取り戻す! いわばこれは女子学校の復古運動だ! いや、現代の廃藩置県と呼んでもらっても構わない!」

「つまりあれですか、女子高生の制服の多様性を取り上げる、と」
 おずおずと一人の若手が手を上げる。若干唇が震えているように見えるのは気のせいか。

 若手議員の演説が始まります。
 
「例えば朝、とある私鉄に乗ってごらんなさい。そこには女子高生たちが友達と語り、彼女たちなりの青春を楽しんでいます。その姿は多種多様な制服に包まれていて、それぞれの個性を引き立てているのです。それを画一化しようなどと!まったく以て言語道断です。議長の提案する画一化された制服、それは議長にとってのノスタルジィでしかありません。私たちの世代とはかけ離れた、失礼ながら化石のようなものです。我々にとっては種々のブレザーに赤や青のリボン、またはネクタイ、そしてチェックのスカートはひざ丈、許してひざ上5cm、それに紺のハイソックス36cmにローファーと決まっているのです!」

「いやそれは違う!」
 ほかの議員が発言をする。
 
 これはそんなに長くないです。
 
「紺のハイソックスだけが女子高生を形作るんじゃない。黒のタイツこそその美をより際立たせるのだ! しかも80デニール指定だ!」

「いや、白のセーラー服に白いハイソックスも捨て難いじゃないか!」
「私は、スカートはひざ上10cmまでは許すぞ!」
「ローファーは黒じゃない、ブラウンだ!」
「色などどうでもいい!牛革でなくてはならない!」
「……ニーソもありだと思うんですけど、」
「却下だ!」

 段々と不規則発言ばかりになってきた。その中、古参の議員が一言。

「君たちは形にばかり囚われて、本質を忘れている。制服はあくまでも小道具に過ぎないのだ。思い描くがいい。篠突く雨の中、ラブレターを渡した初恋の先輩を、校庭の木の下で雨に濡れながら一人待っている女子高生を! すでに雨なのか涙であるかわからないが、明らかに泣き腫らした目をしている女子高生を! 美しき姿とはこのようなことではないのか!」

「異議なし!」

 満場一致の声と共にスタンディングオベーションが巻き起こる。議長他、場内の半分以上のものが目に涙を浮かべている。そして閉会。相変わらず何も決まらないのだ。

 傍聴していた私は呟く。

「三つ折りのソックスは、ありだな」

 

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