円環(1)

「君に頼みたいことがある。ある人物を探し出して欲しいのだ」
 男は飛び込んで来るなり、こちらの都合など全く知ったことではない、と言わんばかりに一気に要件をまくし立てた。そして更に続けた。
「顔写真すら無いし名前も分からん。ただ、スネークチャーマーという通り名と、南京町辺りを根城にしていることだけが手掛かりだ。あとはこの絵」
 目の前に差し出された紙片にはドーナツ型の図形が描かれている。
「もちろん、成功すれば報酬は弾ませてもらう。ただし、失敗という選択肢は無いと思ってもらいたい」
「まずは冷たい物でもいかがですか。その上でゆっくりお話を」
「よいかよいな、頼んだぞ。見つかったらここへ連絡を」
 男は名刺を一枚、投げて寄こした(なかなかの腕前だ)。そして気忙しく事務所の扉を出て、……案の定、段差につまずき、そのまま転げるように帰って行った。

 

「さあて、どうしたもんですかね」
 来客用の長椅子に横になって、呟いてみる。明らかに割に合わない匂いしかしない。スネークチャーマーって通り名からして、やばい匂いがプンプンだ。放っておくか、とも思ったが、貰った名刺を見て考えを変えた。ぱっと見、とある会社の名刺で、そこの取締役ってことになってるが。この会社は○○組のフロント企業だ。さあ、後ろの門が閉じた。
 人探しは得意な方だとは思っているんだが、こういう案件はできれば勘弁してもらいたいものだ。
「やるしかないよ、ねぇ」
 まずは根城にしているという南京町に向かうことにしよう。南京町? 神戸かよ! 遠いなぁ、出張代は弾んでもらえるだろうか。

 

「……もう一つくらい、キーワードが欲しいところだよな」
 スネークチャーマー。蛇使い。ただこれだけのヒントでどうなるものか。こういう時は直球勝負だ。陰のありそうなのに、スネークチャーマーを知っているかとひたすら聞いていくしかない。どこかでこっちの目論見通りになるだろう。その時に生きている保証は無いかもしれないが。
 六人目に尋ね終えたあたりで、どうやら目的は果たしたようだ。気が付けば3人に囲まれていた。
「……どこまで掴んでいる?」
 かなり鍛えた体のスキンヘッドが話しかけてきた、いや詰問をしてきた。ほかの二人は、すでに私の両腕を抱えている。
「何のことですか。私には何のことか全くわからない。ただ人探しを頼ま……!」
 スキンヘッドの拳が私の腹にめり込んだ。叫ぶことさえできないような鈍痛が駆け巡る。が、一つヒントらしきものが見えたかもしれない。腕の入れ墨。喰らい合う二匹の蛇。脇の二人にも、首筋に同じ刺青が見えた。
「もう一度聞く。どこまで掴んでいる?」
 スキンヘッドが私の髪を掴んで顔を上げさせ、尋ねる。カマをかけてみるか。

「……ウロボロス
 これでこいつらの顔色でも変わればしめたものだ。


続く。

 

お題:「神戸」「蛇」「ドーナツ」

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