参道にて

とある神社の参道。
正月で賑わっている。
甘酒や汁粉が振舞われている。

参道の端、人通りの比較的少ないところに娘が立っている。

娘、見るからに人待ちの風体。
娘、しきりに時計を気にする。

娘に近づく男女の二人連れ。
薄い笑顔の男と、美人だが人好きのしない女。

娘、顔を上げる。
娘、男の方の顔を、きっと睨みつける。
娘、一枚の紙を男のほうに突きつける。
男、一瞥してからその紙を取り上げ、クシャクシャに丸める。
男、内ポケットから財布を取り出す。
男、札束を掴みだし、その札で娘の頬を叩く。
娘、口を結び、男の頬を思い切り平手で打つ。
男、娘の頬を思い切り叩き、手にしている札束を地面に叩きつける。
男、女を連れて立ち去る。
娘、地面に散らばる札束を拾い始める。
娘、拾い集める手がいつしか止まり、嗚咽を漏らし始める。
娘、拾い集めた札を胸に抱くようにしてしゃがみ込み、泣き始める。

甘酒を振舞っている男、娘に甘酒を差し出す。


「これでも飲みな。悲しいときには甘いもんがいい」
「これを飲んだらな、笑わなくてもいいから背筋を伸ばせ」
「油断してるところを見せるとな、碌なのが寄ってこないからな」
「まずは一回、家へ帰れ。帰って、そこで大声で泣け」
「心配するな、きみはあいつが連れてた女の数倍はいい女だよ。自信を持て」
「笑えるようになったら、またお参りにおいで。神社は逃げないから」

 

お題:「甘酒」「時計」「美人」

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