No Reason Why

 土間の真ん中には、アラジンの石油ストーブが一つ、上にはアルマイトの大ぶりなヤカンが乗ってい、しゅんしゅんと湯気を上げている。


 ストーブの上面が出るように真ん中に穴をあけたテーブルがあり、そしてその上にせんべいなどが入った菓子盆と、人数分の湯飲み茶碗。そして周りに丸椅子、ひじ掛け付きの椅子他、いろいろと腰掛けが並んでいる。

 

 だが、この場に足りないもの。人の気配。

 

 床に、人が、いや、人だったものが三つ、横たわっている。2人は喉を切り裂かれ、もう一人は正面左肩から袈裟斬りにされ、いずれも絶命している。つい今日の日中までこの土間で作業をしていた人間である。
 
 いや、人の気配はある。ただ一人だけだが。
 その場に返り血に塗れた男がひとり、立ちすくんでいる。

 

”OK, Boss. It's done.”

 

 ただ一つの人の気配がそう呟いて、黒い通信機らしきものをイヤホンごと投げ捨てる。そしてそのまま土間から出て行く。

 

 イヤホンから音が漏れ聞こえる。
 あまり有名ではない演歌に続いて、パーソナリティの声。

 

 雉虎の猫がいつしか土間に入り込み、その主だったもののそばで一つ、

 にゃあ、

 となく。
 

 そして座布団の敷いてある椅子に飛び乗り、身を丸めた。

 


 

お題:「ストーブ」「椅子」「イヤホン」

 

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