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 マッチを一本、擦る。ぼうっ、と橙色の火が燈る。しばらく眺めて、灰皿に落とす。そしてまた一本、火を燈して、灰皿に落とす。そんなことを、ずうっと続けている。灰皿には、マッチの燃え滓が山のように積まれている。
 橙色の灯。ほんの少し、ほんの少しだけ、温かい。

 

 どこかで猫が鳴いている。ちょうど盛りがつくころだ。赤ん坊の泣き声のように聞こえて、……いつもなら、不気味、と思ったんだろうが、特段、何の感慨もない。むしろ、怒り。

 

 わかってる。元々、家庭を持った人を好きになったんだから。一方的な片思いなんだって、わかってる。わかってた。そのつもりだったのに。
 3年も付き合って、初めて身籠った。そのことを聞いた彼が、しまった、という表情を浮かべた後に躊躇なく、堕胎せ、と言った。その時、私の思いは冷めた。なんでこの人をやさしい人だと思ってたんだろう。
 2,3日したら、出血した。
 その翌日に、流れた。
 悔しかったけど、涙はなかった。

 

 愛は、もういい。いらない。疲れちゃった。
 でも、私は知っている。一度肌の温もりを知ってしまったら、独りが辛くなること。誰かの温かさが欲しくなってしまうこと。
 だから、マッチを擦る。橙色の灯が、少しだけ闇を照らす。そして燃え滓が残る。

 

 それが私だ。

 

 


お題:「片思い」「猫」「燃え滓」


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