書け!
……ええ、そうなんです。ここのところ夜になるたびに、部屋の片隅から不可思議な音が聞こえるんですよ。こう、ペンの軋る音のようなね。
ゆんべなんかは、その正体を確かめてやろうと、こう、ずっと起きてましたらね、出てきましたよ、なんかよくわからないのが。けっこう小っちゃかったですね、毛むくじゃらでね。黒い毛玉みたいなやつで。そこに細ッこい手足がついてまして。
自分の体より大きい、結構立派なペンを持って出てきましてね。ご丁寧に紙も一緒に持ってきてまして、やつの目の前に広げて、ペンをこう、えいやッと構えてですね。10分もじっとしてましたかね。
そう、何にも書かないんです。そのうち傍にペンを置いて、こう、頭? を掻きはじめましてね、あれですね、ペンの軋る音じゃなくて、頭ァ掻き毟る音だったんですね。
そんで小一時間もしたら、紙とペンを持って帰って行っちまいました。ありゃあ、何だったンでしょうかね。頭掻いてるから物掻き? 冗談言っちゃあいけねぇや、
……しっ、ほらそこ。そうそう、その部屋の隅んところ。あれですよ、あたしが見たのは。ありゃぁ、何ですかね。酒の小瓶持ってますよ。野郎、酒に逃げやがりましたね。
おう、酒なんか飲んでねえでなんか書け!
了
お題:「瓶」「ペン」「音」