鍵の解法

「持つべき者が手を掛ければたちまちのうちにその手中に収まる、か」
剣士が誰にともなく呟く。
「しかしこいつは岩には刺さってないぜ? ごつい鎖で宙吊りにされてやがる」
ナイフを弄びながら、人相の悪い男が言う。
「しかしながらこの刀身の文様や形状から、エクスカリバーであることに間違いはありませんよ」
智者が知識の棚から言葉を紡ぐ。
「そんなことよりもだよ、そのえくすかりばぁの下にいる人は何なの?」
もう一人の剣士が指摘する。

 

確かに、その宙に縛り付けられた刃の下に、一人の女性が目を閉じ、小さくかしこまっていた。東方の者から見ればそれは、正座というものだとすぐ気づいただろうが。智者は風習風俗にはあまり興味を抱かれなかったようだ。白の貫頭衣のような衣服に下には赤いスカートのようなものをつけている。シャーマンのようなものだろうか。

「……私は、先の代からこの剣の守を仰せつかった者です」

「鍵として、ここでこの剣の守をしろと」

剣の下の女が静かに口を開いた。そして、短く続ける。

「私からの問いと答えは、これで全てです」

 

「……だ、そうですよ、旦那」
剣士が振り向き、奥に声をかける。華美な鎧に身を包んだ、おおよそ場違いと呼ぶにふさわしい出たちの男が、のっそり、いやがっしゃんがっしゃん音を立てながら向かってきた。

「美しい婦女子じゃあないか。いや、実に美しい。顔を近寄せたいがすまない、この鎧では屈むこと儘ならん」
嫌味であり、何かずれた口調で鎧の男が甲高い声で話しかける。だが、それに対する女性の答えは無い。

「智者くん、君に一つ知識を授けようか。この女性はね、東方では”巫女”と呼ばれている。神に仕えるものだよ。そして」
鎧の男は両手剣を躊躇なく振り抜き、その彼が”巫女”と呼んだ女性の首を刎ねた。
脈を打ち吹き上がる鮮血が刀身とそれを縛る鎖とにかかる。鎖は血の洗礼を受けるとまばゆい光を放ち、その姿を消した。
「彼女は言っただろう? ”鍵として”守をしている、と。鍵は鍵として使うもんだよ」
鎧の男は嘯き、宙に浮いた剣の柄に手を掛けた。

 

宙に浮いているのはエクスカリバーと呼ばれた剣だけではなかった。鎧の男にはねられた巫女の馘、それも地に落ちることなく宙に浮いていた。その首が、目の前で起きていることをよく呑み込めていない者たちに語り掛けた。
『愚者に止むを得ず付き従ってきた者たち、この場を立ち去りなさい。問いには答えたが、この男は器ではない』

 

既に鎧の男の声はなかった。その剣を中心に冷気がこの場所を支配していった。
鎧の男自身が氷の柱となりはて、剣をその内に収めてしまった。

 

付き従ってきた剣士たちの姿はすでになく、いつの間に現れたのだろう、氷に覆われた剣の前に、一人の巫女が傅いていた。
新しい鍵として。



お題:「氷」「巫女」「エクスカリバー

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