飛火野

一の鳥居から飛火野を抜け、春日大社の本殿へ参る。
君と幾度か通った道。
帰り道は二の鳥居から脇へ、囁きの小径へと歩を進める。
馬酔木の森の密やかなるを、互いの息吹の感じるほどに肩を寄せ歩く。
それも今日が最後、いつになく二人押し黙り。
この道の果てる事無きを望む僕と沈黙に圧し潰されそうな君と。
この束の間、今や通わぬ心を恨めしくも愛おしく思う。

 

ふと思う。
何度目に通った頃からだろうか。
僕ら二人が寄り添い歩いているふりをしていたのは。
鹿苑より鹿の音響くを、上の空に聞く。
互いに憎んではいない、と信じたい。
ただすれ違い、離れていっただけだと。
元の他人に戻るのだ、ただそれだけだ。

 

だがせめて、この小径の終わるまで。
離れた心の穂を拾い集めさせてくれ。
人の心のまよい木の、馬酔木の森の抜けるまで。



nina_three_word.

Including
〈 息吹 〉
アセビ(馬酔木) 〉
〈 つかぬ間 〉