「これで成体なんですって?」
 足元に映し出されたドローンからの画像のおよそど真ん中、ぶよん、とした巨大な物体をしげしげと眺めながら、彼女がポツリと漏らす。その見た目は甲虫の幼生そのまま、青白くぷくぷくとした、まあいわゆる芋虫、という奴だ。ただ問題は、ここがちょっと特別な海辺であること。すぐ近くに原子力発電所が控えている。そして一番の問題は、この芋虫は、原発を圧し潰せるくらいに巨大だ、ということ。


「よりによって、なんでこんなところに出てきてくれるかなぁ」
 対策本部、何て名前をつけられて召集された我々としては、愚痴の一つも出ようってもんだ。排除する。どうやって?
 生物学者の先生たちの見解は先ほど彼女が漏らした通り。どうやらこいつは昆虫の類で、これで成体であろう、ということ。こいつが蛹化して成虫になり、わしわしと歩き回らないだけでもましだろうか。だがしかし、何の解決にもなってはいない。

 

 自衛隊による駆除、米軍との共同作戦による排除。それはさすがに難しい。原発がなければそれでいいが、こんな至近距離ではさすがに内に向けても対外的にもいろいろまずいだろう。それに近くて遠いお国の方々が、脅威の排除名目で花火なんぞ上げようとしないように牽制をしておいてもらわないといけない。
 そのまんま地中などに帰って行っていただきたいのだが、さすがにそれはまずい。ある意味もっとまずい。海に帰っていくか、いやどう見てもこいつは海洋生物じゃないから無理だろう。
 なので、そっとこいつの息の根を止めて、原発のほうへ動いていかないようにする。それが一番現実的な方法だろう。死体の処理はまた後で考えるしかない。ではどうやって? そうして考えは堂々巡りになる。

 

「このまま、じっとしていてくれないかしら」
 刹那、芋虫が半身を起こす。幸い原発とは逆の方向を向いているのが幸いだが。耳鳴りのような音が響く。

 キィィィィィィィ!

 目の前が眩む。
 次に、極彩色の壁が目の前に現れ、迫りくる。
 目の前が極彩色に溢れ、色を失った。

 

 

 いま、我々の目の前には原発。そしてその脇には、何か巨大なものがあったかのように、木々が圧し倒されている。
 なぜ我々はここにいるんだ? あの木々が押し倒されているところには何があったんだ? 誰一人としてそれを説明できるものはいなかった。そもそもなんで生物学者がここにいるんだろうか。ここにいる皆が狐につままれたような心持だ。何もかもが不可解。

 

 

 どこかの誰かの心の奥底。
 一匹の蟲が巣食うていた。
 蟲は眠り、現の夢を見る。
 宿主の心を依り代に、
 蟲は眠っていた。
 夢は現、現は幻。

 


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ネオテニー
〈 夢幻 〉

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