出られるのか

 ホームは人で溢れている。到着する列車から吐き出される人、人、人。それを受け止めるのは、島式ホーム一本だけ。改札口は二つあるにはあるが、どちらも人が掃けていく気配がない。

 

 そして、その真っ只中に、俺はいた。

 

 二進も三進も行かない、とはこのことだ。進むも叶わず退くも能わず。そうしているうちに山手線の銀色の車両が人々を吐き出し、その新たな降車客たちがやっと空いたスペースを埋め尽くし、元の木阿弥となっていく。

 

 少しでいいから、前へ進まないものか。

 

イライラが募る。すでに3本の内回り、4本の外回りを見送った。その度に人々が吐き出され、ホームを埋め尽くしていく。この遥か先にある改札口は、どうなっているのか。本当に出られるのか。疑心暗鬼になっていく。

 

 あれから少しでも前へ進んだだろうか。ホームの上は既に飽和状態で、立錐の余地はない。次の列車が着いても、誰も降りられないだろう。

 しかしこれだけの混雑だというのに、誰も愚痴すら漏らさないというのは一体どういうことだ? そう思うと少し気味が悪くなってきた。まさかこの中でイラついているのは俺だけなのか?

 

 そろそろ我慢も限界に近づいてきた。そっと呟く。

「……明治神宮側の降車ホームを開放すればいいのに」

 その瞬間、今までになかった明確な悪意が四方八方から俺に向けられるのを感じた。悪意、敵意、舌打ち。何なんだ、これは。この集団は何なんだ。何かの意思が働いているのか。俺はこの得体の知れない集団に飲み込まれたままで、どうすればいいんだ。

 

 あれからどのくらい時間が経ったのだろう。日が傾き始めたのがわかる。

 俺はまだ、ここ、原宿のホームにいる。

 

 ここから出してくれ、お願いだ。

 

 

 

原宿