染井吉野
「この辺りがさ、ソメイヨシノの発祥の地なんだって。ほら、こんなところに碑がある」
「おお、本当だ。こんな改札を出てすぐ目の前の白山通りを渡ってすぐ、線路脇に目立たずひっそりとあるなんて」
「誰に対する丁寧な説明なんだそれは。まあ実際はこの辺から駒込にかけてらしいけどね」
「そういやさ、ソメイヨシノって、なんで一斉に咲くか知ってる?」
「知らね。でもそう言えば桜って一斉に咲くなぁ。なんで?」
「ソメイヨシノってさ、タネから育たないんだって」
「へ? それじゃどうやってあんなに生えてんのよ。結構な数だよ、あれ」
「うん。あれさ、みんな接ぎ木なんだって。だから、みんなおんなじ木なんだよ、理屈上は」
「へえ」
「みんなおんなじ木だから、咲く時期も一緒になるんだってさ。だからあれだけ計ったように一斉に咲く」
「なるほど。詳しいね、親戚にソメイヨシノでもいるのか」
「違うわ。テレビで見たの」
「なんだ受け売りか。でも為になった、ありがとう」
「ドイタシマシテー」
「あ、その言い方はなんかイラっとくるな。前言撤回しようかな」
「ああごめん悪かった。チロリアン買ってあげるから許して」