特異点

「結構な年の差だ、いいか、訳ありな体で行くぞ」

「絶対に、何にもしませんよね?」

「な、……あ、当たり前だ! いいか、これは重要な任務だ。特異点の観測、そう、観測だよ!」

「何をそんなにアタフタしてるんですか。手を出したらどのまま即座に連絡しますから」

 

今回鶯谷駅近くにて、時空の穴とも言うべき特異点が発生しているとの報告を受けて、我々はその調査のために派遣されてきた。私の右腕となるこの女史は大変に優秀である。しかも美しい。が、かなり警戒心が強く……、いやわかっている皆まで言うな、そうだよ、私が毛嫌いされているんだよ。なんでまぁこの組み合わせになったものか。

しかも悪いニュースは重なるもので、どうやら今回発生した特異点は、ここ鶯谷の一角に広がるラブホテル街、しかも店舗内にある、とのこと。

うむ、その指摘はどうなんだろうか。私の鼻の下が伸びていると。そこまで下衆ではないとだけ言っておこう。なに、目尻が垂れている。細かいところを突くなぁ君は。そういうのは嫌われるぞ。

「さっきからなにをブツブツ独り言を言ってるんですか? 早く行きますよ!」

 

「……なにしてるんですか。部屋の番号は分かってるんですよね?」

「そ、そうは言ってもねぇ……」

「まさか、ラブホ来たことないんじゃないですか?」

「失礼な! そ、そんなことあるわけないじゃないか!」

「この明かりがついたところのボタンを押すんです。でフロントに行って鍵をもらってください」

「あ……。手慣れてらっしゃるん、です、ね」

「結構古いシステムですよ、これ。なんで知らないんですか?」

……そんなに追い打ちをかけなくてもいいじゃないか……

 

「探知機の反応ではこのあたりなんですけど、まだ遠い感じですね」

「そうだな。壁の中とかかね」

「だとすると厄介ですね。そこにあるのはなんですか? そのパイプみたいなやつです」

「……君が知らないんじゃ、僕に分かるわけないだろう?」

「いまの発言は人事のほうに、セクハラの疑いがあると告発しておきます」

「なんだろねー、これはなんだろねー、って、実は知ってるんだよ僕ァ。これは、“エアーシューター”だ!」

「あ、そうなんですか。反応はこの奥の方なんですよね」

「モウチョットオドロイテクレタッテイイジャナイカァ……」

 

特異点は、このエアーシューターの先みたいですね」

「そうだね。観測機器のセットを」

「はい」

プルルルル……、 プルルルル……

「手が離せないんで出てもらえますかぁ?」

「はいはい。……はい、何でしょうか。……ああすいません、いま手が離せないところなので手短に……あ、はいそれでいいです」

「…………」

「なんだその、あーあやっちゃった、って顔は」

「(いま手が離せないって、よりによって……)」

 

「観測も大方終わったようだね」

「なかなかに興味深いデータが取れましたね」

「ところでだね、試してみたい事があるんだが」

「偶然ですね、私もです」

「……入れてみたいと思うだろ?」

「……はい、発射させてみたいです……」

「では、やってみようか。準備はいいかい?」

「はい……」

「じゃあ、入れるよ」

「はい、思い切り、飛ばして、ください!」

 

シュッ。

 

「おお、エアーシューターってこんな感じで飛んでいくんだなぁ」

「初めて見ました。これで伝票とかやりとりしてたんですね」

「でも今回は、行き先が特異点だからね」

「どこへ飛んでいくんでしょうね、私たちのメッセージ」

 

 

 

鶯谷