「父ちゃん、ぼくは漁師になる」

 

篠突く雨の通り過ぎた突堤で、海の彼方を見つめて、息子が言う。

 

「そしてあそこまで行って、でっかい貝を取るんだ。それを食べれば、きっと母ちゃんも元気になるよね」

息子は彼方の沖合を指差す。

空には、通り過ぎた深い灰色の雲を背に、虹が架かる。

私は息子を強く抱きしめ、これほどまでに優しく育ってくれたことに感謝をする。

 

だが息子よ。

おそらく君が考えているのはハマグリだろう。

 

ハマグリが吐くのは蜃気楼だ。

 

虹じゃない。