「真景 累ヶ淵」を読む  弐・新左衛門乱心

主な登場人物
  • 深見新左衛門  : 小普請組の旗本。
  • 新左衛門の奥方 : 深見新左衛門の妻。
  • 深見新五郎   : 深見家嫡男。
  • 深見新吉    : 深見家次男。
  • お熊      : 女中。
  • 勘蔵      : 門番。
  • 皆川宗悦    : 鍼医者。副業で高利貸。新左衛門に斬り殺された。

 

 あらすじ

 宗悦の惨殺体を見てからというものの、奥方は心を病み床に臥せりがちになる。奥方の看病のため、剣術道場へ住み込みで修行に出していた嫡男新五郎を家に呼び戻す。これだけでは家のことが立ち行かなくなると、お熊という女中を入れる。新左衛門はお熊に入れ込み始め、ついにはお手付きとなる。

 お熊、子を宿してからというものの増長をしていく。新左衛門に奥方や新五郎の悪い噂を吹き込む。これでは跡目を継ぐもままならぬといたたまれなくなって、新五郎は家を出てしまう。

 ある日奥方があまりに苦しいと訴えるので、流しの鍼医を呼んで、暫く通って治療をさせるが、最後の日に打った鍼がどうやら塩梅よくなく、胸のあたりに激しい痛みが残り水がじくじくと出てくる。

 その鍼医を叱責しようと毎夜待っているがなかなか現れない。やっと通りかかったのを勘蔵が連れてくるが、やせぎすの俄按摩師、病人は揉めないというので新左衛門が揉んでもらうことになるがこの按摩がどうにも痛く,加減せよと言っても一向に弱める気配がない。

 

”あなた様の脇差で肩から乳の辺りまで斬られた痛みは、

こんなものではありませんからナ”

 

 按摩師の顔を見ると、先の按摩師の顔ではなく宗悦が見えぬ目を見開いて新左衛門を睨みつけている。おのれ化けて出おったかと一刀のもとに斬り伏せると宗悦どころか按摩の姿すら見えず、代わりに厠へでも向かおうとしていたか奥方がバッサリと斬られて倒れている。

 

 奥方は病にて亡くなったと何とか取り繕うたが、役柄として他の旗本の諍いの調停に行った際、深見新左衛門は槍で突き殺されてしまう。お家は改易、お熊は生まれた女児を抱えて深川へ。次男の新吉は勘蔵が引き取り大門町へ。自らの子として育てることとなる。

 

雑談

 宗悦の呪いか、深見家の家中がガタガタに。奥方は心を患って床から離れられず、そりゃそうだ、手持ちの蝋燭の明かりン中でどす黒い血に塗れた宗悦の死体なんぞ見た日にゃ、まともじゃいられませんわな。

 で、看病のために息子を呼び戻す。これだけじゃ家の中のことができないから、女中を入れる。気が付けば女中に入れ込んで女中に入れてる。深見新左衛門、酒色に溺れてまいります。これも酒に酔った勢いとはいえ、宗悦を斬った負い目なのかどうなのか。

 女中のお熊、そりゃ入れてますからお子ができる。奥方と息子さえいなけりゃ私が旗本の妻よ、と思い新左衛門の嘘八百を吹き込んでいく、家庭内はぎすぎすしていく。家庭崩壊です。嫡男新五郎はそんな家庭にいたたまれなくなって逐電、姿をくらまします。

 

 そんなある日、奥方が鍼医の治療を受けます。おそらくこの辺りは、のちの按摩を呼ぶ話への伏線なんですかね、通りかかった按摩を連れてきて……、となるわけです。

 怪談噺ではここが一番の聴かせどころです。

 

 この後深見家は改易となってしまうのですが、そこに至る話が、桂歌丸さんは少し円朝版からはアレンジをされているよう。

 奥方を斬り殺した後にご乱心、隣家へ切り込んでそのまま返り討ちに遭う、と語ってらっしゃいます。こちらの方が、今となってはしっくりくるものかもしれません。

 

 これで宗悦の呪いは成就ました。本当に?

 まだまだ怪異なお話が続きます。

 

 次は、逐電をした深見新五郎のお話となります。