「真景 累ヶ淵」を読む 四・新五郎捕物
主な登場人物
- 深見新五郎 : 深見家嫡男。お園を殺し店の金を奪って逃走中。
- 春 : 荒物屋女将。
- 金太郎 : 捕者(岡っ引き?)。
あらすじ
故意でないとはいえお園を殺めてしまい、店の金を百両奪って逐電した深海新五郎、剣術の師匠を頼って仙台で身を潜めていた。
身を潜めて三年ほど、そろそろほとぼりが冷めたろうと江戸へ戻り、昔、深見家に仕えていた下男を頼り深川へ向かうが、何やら付けられている気配を感じ、近くの荒物屋(雑貨屋と駄菓子屋を兼ねたようなもの)に飛び込む。
荒物屋の女主人・春に、この辺りに深見という屋敷に仕えていた者はいないかと問うと、それは私の父で、前年に亡くなったと。これも何かの縁なのでここでゆっくりお休みなさい今うなぎでも買ってまいりましょうと、春は表へ出るとそのまま捕者の金太郎の元へ。春には元々これこれこういうものが来たら伝えるようにと言い含められていた。
報せを受けて荒物屋へ向かい、うなぎ屋を装って捕らえようとするが、新五郎は手近の包丁で切りつけ抵抗、屋根に上がり逃走を図る。
路地には捕手が待ち構え降りるに降りられず、まだ捕手の手が回っていない先に藁を積んだところが見えたので一か八か飛び降りる。藁の中になんとか着地したが、足をついたその下に押切があり、足をざっくりと切ってしまう。
新五郎、そのまま捕らえられる。
奇しくもその日はお園を殺めた日と同日であった。
雑談
新五郎捕縛の一幕。人死には出ません。いや、この話の後で出る筈です。
しかし何故、新五郎は江戸に戻ろうと思ったんでしょうかね。いくら昔馴染みの下男がいるからと言って、お園を殺して百両盗んで下總屋から逃げ出している時点で捕まれば死罪確定の凶状持ち、そうそうお天道様の下なんか歩けはしません。仙台に引きこもっていた方が遥かに安全なはずなのですが。
まあここは、皆川家の怨念が呼び寄せたものだとしましょう。
ここは荒物屋に入ってから捕縛までの大捕り物を楽しむところですね。女主人・春の機転から捕手の金太郎がうなぎ屋に変装して乗り込む、最初はうまい具合に逃げ出す新五郎が段々と追い詰められていくまでのスピード感なんかは、ちょっとした刑事ドラマのようです。
進退窮まって、一縷の望みを賭けて飛び降りた先に押切が。そう、お園を殺してしまったあれで足をざっくりとやってしまう。この辺りもお園の怨念、そして深見家と皆川家の因縁でしょう。
先に記した通り、お園の件が過失だとしても(まあ殺しってことにされるでしょうが)、百両盗んでいる時点で死罪、逃亡時に捕手にけがを負わせているので、最悪獄門は確定なので、このお話の外で深見新五郎は処罰をされることでしょう。
さて。
ここまでで、「真景 累ヶ淵」の序章の幕が下りました。
深見新五郎捕縛の十九年後から、お話の本編が幕を開けます。
怪談噺らしくなってきます。