「真景 累ヶ淵」を読む 七・土手の勘蔵
主な登場人物
- 新吉 : 煙草屋の惣吉の甥。豊志賀の若い燕だった。
- 土手の甚蔵 : 羽生村の悪党。
- 清 : 羽生村の村人。
- 豊志賀 : 死亡。新吉に祟る。
- お久 : 江戸から新吉と逃げてきたが、新吉に殺される。
あらすじ
なんとか逃げてきた新吉は、甚蔵の家と知らずに灯りのついた家に飛び込む。男が一人、同じように雨宿りをしていて、家主はいま留守だと言う。
その話の最中に甚蔵が帰ってきて、今しがた土手で人殺しがあったこと、恐らくは犯人であろう奴と取っ組み合いになったことなどを話し始める。
同じく雨宿りをしていた、清と呼ばれた男が帰ったあと、甚蔵は血糊のついた鎌を新吉に見せ、人殺しはこれで殺しやがったと新吉の前に投げて寄越す。顔色を変える新吉。
甚蔵は新吉に、行く宛がないならここで寝泊まりをすればいい、俺も江戸は本郷菊坂の生まれだから江戸者は懐かしい、どうせなら兄弟分になろうと持ちかける。新吉は頼りとなるお久が居なくなってしまったので、それを承諾する。
兄弟分になったからには、良いことも悪いことも打ち明けなければならない、と甚蔵。
やいてめぇ、殺しやがったな。
勘蔵は、兄弟分ならすべて話せ、さもなければ代官所へ引き渡すと、新吉を脅す。
止む無く新吉は、お久を殺すに至った経緯の一切合切を話す。
物盗り目的ではない、一文無しだと知って勘蔵の期待は外れたが(しかも幽霊憑き)、仕方なく新吉を家に置くことにする。
そして、一晩明けた。
雑記
豊志賀からお久殺しの顛末までが第一章、とすると、このあたりのお話は第一章と第二章の橋渡し的なお話です。
勘蔵、という悪党が登場します。悪党、というかまあチンピラですね。土手で新吉と取っ組み合いをした、あの男です。
新吉がお久を殺すところを見ていたかもしれない、見ていないまでも、誰かが女を殺したくらいは知られている。そんなのに捕まったらえらいことなので新吉は必死で逃げる、灯りがついた家があるので助かった、しかしそこには先客が。
いつまでも留まっているわけにはいかない、そのままこの家にいて頃合いを見てお暇するより他はない。と思っているうちに家主が帰ってくる。なんとか逃げ出さないと。
新吉には気が気じゃない。とっとと逃げ出したい訳です。そうしたら、家主、名は土手の勘蔵と言うのだと、あまり筋の良い人間ではないと、先客の清と呼ばれる地元の男が教えてくれます。この清という男も、どうも真面目な男では無さそうです。
戻ってきた勘蔵が、土手であったことを話始めます。女が殺されたらしいこと、その犯人らしい男と取っ組み合いになったこと。もう間違いない、さっきの男はこの勘蔵ですね。
清が帰って、さあ新吉と勘蔵が二人きり。勘蔵が目の前に鎌を投げて寄越す。取っ組み合いをした辺りに落ちていた、この鎌は村のもんが使う鎌だが野郎これで殺りやがった。まあ、冷や汗ものですよね、凶器が出てきちゃったんだから。
ついさっき。
土手で。
お久を滅多切りにした。
あの鎌が目の前にある。
土手の勘蔵、新吉に、この雨だからとりあえず泊まっていけと。行く宛てがないのなら(そりゃそうです、親戚がいるって言ってたお久を殺しちゃったんですから行く宛てなんかありません)、ここにずっと居たって構わないと。自分も江戸は深川の生まれだ、江戸の人間は懐かしいと。優しく言われるわけですね。
で、兄弟分二なろうと持ち掛ける、兄弟分になる、兄弟に隠し事があっちゃいけねえ。それで、あの台詞なわけです。勘蔵、かなり狡猾です。新吉も代官所に突き出されたくないから全部喋るより他無い。豊志賀に祟られていること、お久と駆け落ちをしてきたこと、途中でお久の顔が豊志賀のようになった(なったように見えた)こと、恐怖でお久を殺してしまったこと……。
思惑とは違う形ですが、新吉は羽生村に居付くことになりました。
ここからが、第二部の始まりです。
正直、胸糞悪い話になりますので、お読みの方は若干の御覚悟を。
それでは次回まで。
次回のタイトルは、「鎌(予定)」です。