詩人の罪

 もう長いこと、私は地に横たわり、空を見上げている。私の四肢はすでに朽ち始めていて、身動きすらとることができない。見上げる先には、太陽がこれでもかとサディスティックな笑みを浮かべて恐るべき熱量を供給し続けている。眩しい、暑い、乾く。しかしもう、それらに抵抗を試みることは止めた。この状況が変わる術を知っているのだが、実のところ何も変わらないのだ。だから、諦めた。

 

 この状況を変えるには、しばらく目を瞑ればいいのだ。そうして目を開ければ、この灼熱の太陽とはおさらばでき、別の景色が目の前に現れる。どうやら、砂に飲まれてゆく古の街のようだ。目の端に巨大な建築物が映りこみ、その先にはわずかに欠けた月が見える。ただ空を見上げるだけ、という状況に変わりはないが、ぎらついた太陽を見続けるよりはましだ。
 私の頭の下に何かがある。心地よい感触だ。誰かが私の顔を覗き込む。踊り子だろうか、若い娘のようだ。ああ、わかった、彼女の膝に頭を乗せているのだ。小さく口元を動かし、凍り付いた表情で彼女は何かを呟いている。

 

「どれだけあなたを思っていてもあなたは私を振り返らない。あなたを追って走って行っても逃げ水のように行ってしまう。やっとあなたを捕まえたあなたはこれで私のもの誰にも渡さない」

 

 喉元に熱い感覚があって、何か叫ぼうとしたが、ごぼ、ごぼと喉が泡立ち鉄の匂いが鼻を衝く。そしてふぅっと意識が白くかき消されてゆく。ああ、死ぬのか。深淵へと意識が沈む。

 

 目覚めたら極彩色の光が目に飛び込んできた。天国とはこのようなものか、いや私が天国などに行けるわけがない。煉獄もかくあるべし、と。
 やがて2人の男児が入ってきて、極彩色を司るセロファンの1枚を毟り取った。そして無邪気な呪詛を唱え始める。

 

「詩人の罪は何の罪。思う人の心に背いて遠く逃げ出す卑怯者。人の心を切りつけて壊してしまう重い罪」

「詩人はどうして罪を贖う。もがいて泣いて叫んだあとに。恥を晒して生きていく」

 

 彼らはその手に持ったセロファンを私の顔に力いっぱい押し付ける。呼吸ができない。もがいて外そうにも既に四肢は腐れている。苦しい、苦しい! そしてだんだんと意識が遠のいていく。

 

 目覚めたらまた、灼熱の太陽が私を照り付けている。それから何度か、目を閉じては別の状況を期待していたのだが、どれも最終的には死が待ちうけ、それから解放されることはなくまた次の死を迎えるだけなのだ。これから永遠に、私は死ぬることなく死を受け入れ続ける。これが私の犯した罪の贖いなのだ。

 

 そうだ、思い出した。あの踊り子の心を壊したのは、私だ。

 

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