地口の旦那、再び

「あのね、番頭さん」
「何でございましょう」
「この間の寄り合いでね、ちょっと面白い噂を耳にしたんですけどね」
「またしょうもないことを伺ってきたんでございましょう、旦那様」
「相変わらずお前は口が悪いね。噂っていうのはね、この世の真理に関わることなんだよ」
「ほら、しょうもないじゃないですか」
「そう頭ごなしに言うもんじゃないよ。いいかい、この世の真理と富を手にする暗号を聞いてきたんだよ」
「はい、伺いましょう」
「なんでもね、”一つだけ山に向かって立つモアイ像の頭から天然水をかけると、すべての真理に近づく”らしいんだよ」
「はあ? モアイ、ですか」
「そう、モアイ。沖縄の方でやってる無尽講」
「それは模合です」
「沖縄の手帳には、模合帳がついてるらしいね」
「よく知ってますね、旦那様。沖縄にお友達でもいるんですか」
「番頭さん、ちょっとモアイの頭から天然水をかけてみておくれ」
「よございますよ。つきましてはモアイの所までのお足を頂戴いたしたく」
「遠いところなのかい? いくらほど出せばいいんだい」
「まあ、お安く見積もってウン十万円ほどはかかりましょうか」
「そんなにするのかい! ……渋谷のモヤイ像じゃダメかね」
「そりゃあダメでしょうなぁ」
「真理や富というのは簡単には辿り着けないもんだねぇ」
「地道に商いをするのが一番でございますよ、旦那様」
「ああ、そうだ。それを試してみよう」
「また何か思いつきました?」
「ほら、街角になぜか貼ってあるあのポスター、ほら、ピース何とか」
「ああ、世界一周の船旅のあれですか」
「あれね、大概モアイの写真が出てるじゃあないか」
「それに水をかけても何にも起きません」
「なにもそんな瞬殺にしないでもいいじゃあないか」
「第一、山に向いているかもわからないじゃないですか」
「お、興味ないふりしてそこは覚えているんだねぇ。さすが腕利きの番頭さんだ」
「興味がないといえば噓になりますか」
「じゃあ、そのうちにモアイのある所まで行きましょう」
「その前にお店に帰りましょう」
「そうだね。ああ、今日も楽しかったねぇ」
「さようでございますな、旦那様」

 


お題:「モアイ」「天然水」「街角」


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