知っちゃダメなの

「よーしカット! いい感じだよー」
「監督、監督。ちょっと」
「なんだ」
「ちょっと小道具の方からですね」
「なんかあったのか」
「あの取り出した銃にサプレッサーつけるじゃないですか」
「そうだよ、このドラマ ”知ってはいけない” のな、あそこでこう、スリルとサスペンスがグワーッと盛り上がっていくんじゃないか」
「その、それが言いづらいんですが」
「なんだよ、早く言えって。何かまずいことでもあるのか」
「そうなんです」
「ここまでのシーンでおかしなところなどなかったぞ。何がまずいんだ」
「あの、小道具さんがですね」
「小道具がどうした」
「サプレッサーつけるっての知らなくて、リボルバータイプの用意しちゃったんです」
リボルバーのほうが拳銃らしいスタイルで見た目にアピールするじゃないか。何がまずいんだね」
「あの、リボルバーって、サプレッサーつけても消音の効果、全くないんです」
「……へ?」
「ですから、たぶんこの後音効さんが、ぷしゅ、とか効果音つけますよね」
「そうだな、消音器つけてるからそんな音だな」
「音、消えないんですよ、あれじゃ」
「見てる奴はそんなの分からないだろう」
「最近のマニアを侮っちゃダメです、監督。絶対気付きます」
「気付くかね」
「絶対に。そしてツイッターで大炎上間違いなしです」
「そうかそれも困るな」
「小道具用意しなおして撮り直し、ですかね」

「あーーー!!」

「なんだ?!」

「あーーー! サチュってるーーー!!」

「な、なんだと?!」

「表出たところから完全にトンでます!!」

「ここにきてなんでサチュレーションなんか起こすんだ! ちゃんと露出測ったんだろうな」

「まさかこんなに日差しが強いとは思いませんでしたー!!」

「スコールのシーンだと言っただろうが! 照明! 何やってんのもう!」

「あーもう全部ひっくるめて撮り直しー!!」


 会議だけではなく、撮影も踊るのである。
 


お題:「サスペンス」「サプレッサー」「サチュレーション」

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