神の住まう島

 本島から少し外れた沖合に、小さな島があった。

 この島は、神様の住まう島。

 太古に2人の神様が降り立った場所。

 その島の真ん中、野原にぽつんとある石に、”祖“は1人腰掛けて空を見上げていた。

 ”祖“は、人間のことを考えた。

 それにしても人間は、しぶといものだ。

 あれだけこっぴどい『永遠の不作』を乗り切り、何かよく分からない作物を実験室で作り。

 でも、やったー人間の本性は、『永遠の不作』のときの、自分さえ良ければいい、他人のことなどお構い無しの、それなんだろう。誰よりも優れていることを望み、力に魅せられ他人を下に見ることを望むんだろう。

 ”祖“はそんなことを考えた。

 その度に、あの人間が頭に浮かんだ。

「……ハルサーめ」

 やったー人間はしぶとい。

 やったー人間は諦めが悪い。

 あのハルサーと同じじゃないか。まったく、わじわじーする。

 

 神の住まう島に、木の葉が一枚舞っていた。はるばる海を渡り、この島に辿り着いた。木の葉はヒラヒラと風に舞い、……よりによって、”祖“の顔に貼り付いた。

 

 “祖”は木の葉をつまみ上げて、しげしげと眺めた。

「……ぬー」“祖”は言った。

「……ぬー」木の葉も言った。

「ぬーやが」

「……」

「ぬーやが!」

「……逆さまだから、下におろして。お願い」

 

 暇だから何か話せと、“祖”は木の葉に言った。木の葉は、見たもの聞いたもの、いろいろなことを話した。小さな御嶽で会った、喧嘩っ早い奴と理屈っぽい奴の話を聞いて、“祖”は少しだけ懐かしそうな顔をした。

 

 木の葉は、出会ったハルサーの話をした。“祖”としては聞きたくもない話だが、何か話せと言った手前、苦々しく聞いた。

「あのハルサーはしつこくて参った。最後はうまく丸め込まれた気がするんだが、気分は悪くない、悪くないです」

「ハルサーか。あの背の高いのか」

「いえ? ちっぴるーですよ?」

「白いのじゃないの?」

「いえ、ピンクっぽいのですよ?」

ふうん。まあ、いいか。

 

 しばらくここにいてもいいですかと、木の葉は“祖”に願い出た。

 

 ゆきぱいかじぬ、吹きゆまでぃ

 

 好きにするとよい。

 一緒に花の育つのでも眺めていよう。

 うーじの伸びる音を、聞いていよう。

 

 本島から少し外れた沖合に、小さな島があった。

 この島は、神様の住まう島。

 そして、”祖“の住まう島。

 そして、木の葉が居候をする島。

 良き南風が、吹くまで。