シャッター

 カンボジアに行ったときの話なんだけど。

 

 あ、そんなに大した話じゃないから気楽に聞いといて。

 

 で、カンボジアに行ったときの話ね。首都のプノンペンってさ、正直言ってそんなに観光するところ無いのよ。王宮とか博物館とかそんなところでさ。

 

  街外れに、キリングフィールドってところがあって。まあ、名前の通りなんだけどさ、ポル=ポト時代の処刑場。そこへ行ったんだ。

処刑場なんて言うから、陰鬱な雰囲気のところを想像して行ったら、まあなーんにもない野原。のどかな田舎の風景なのよ。

 一番目立つところにガラス張りの塔が建ってて、その中に、そこで見つかった遺体の頭蓋骨とか、着ていたものなんかが納められてて。ーー今君が思いついた数の10倍くらいかな。なんていうか、間違いなく目の前にあるのに、あまりの数に全く現実味がない、っていうか。

 

 でさ、その周りに深さにして1m50cmくらいかな、窪みになったところがたくさんあって。ガイド、と言ってもバイクタクシーの運ちゃんなんだけど、に、これは何? って聞いたら、ここに100人、こっちで150人……、みんな死体が埋められてたところだ、と

 

 最初は銃殺だった、途中から銃弾が勿体無くなって撲殺に変わった。あそこに木が立ってるだろう、子どもはあそこに打ち付けてそのまま投げ込んだ。

 

 まあそんな話を聞いて明るい気分にはなれないよね、窪みの底のあたりとか?よーく見ると布切れとか見えてたりするんだわ。

 そんなんでも、せっかくだからとデジカメで写真を撮ってたんだけど。突然シャッターが切れなくなって。うーん切れなくなったというかシャッター降りたまま戻らなくなったんだわ。あ、電池はとっかえたばっかりで、電池切れではないんだ。実際に電源入れ直したらちゃんと動いたから。

 

 これはやっぱりアレかな、写真撮らないでくれってことだったのかな。