失うもの
「本当にここまででいいのか?」
「うん。むしろここまでの方が」
「そういうもんかな」
「そんなものでしょ、今までだってずっと」
「なんだったら展望デッキから飛行機が飛び立つまでいてもいいんだぜ?」
「何言ってんのよもう、あ、ちょっと端に寄って。人が通るから」
「ああ、連絡口の改札前はさすがにアレか。
でもさ、なんでモノレールなんだ? お前の家からじゃ京浜急行の方が便利じゃ?」
「そうなんだけどさ、なんて言うのかな、雰囲気?」
「なんだそりゃ」
「人生でそれなりに大きなイベントに向かうのに、普段乗ってる電車じゃ気持ちが盛り上がらないでしょ? だからモノレール」
「じゃ、そろそろ行くね」
「ああ、元気でな。ーーお幸せに」
「うん、誰かが夜、枕を悔し涙で濡らすくらいに幸せになるから」
駅の外に出て、貿易センタービルと文化放送の間に架かる歩道橋の真ん中、俺は東京タワーを見つめていた。冬は過ぎたものの、まだ暖色のライトアップを纏ったタワーを見ているうちに、悔し涙が、零れた。
浜松町