なぜ私が同窓会に出たくないのか

 同窓会、行きたいと思いますか?

 私はイヤです。中学校でも、高校でも。特に中学校は、絶対に行きたくない。

 楽しい思い出はあります。初恋の子もいます。でもそれ以上に、顔も見たくない奴らがいるので。

 せっかくなので、ここで一気に吐き出してしまいますか。

 

 あ、ここから口調が変わりますが気にせずに。

 

 大学生の頃、私は実家からすぐの古アパートの四畳半一間を自分の部屋として充てがわれていた。その部屋は道路に面してい、表のちょっとした物音も全て聞こえてしまうような部屋だった。

 ある日の夜、部屋を強くノックする音が聞こえた。誰だ、他人なんか滅多に訪れることなどないのだが。年代物の、ベニヤでできた扉を開けると、男が三人立っていた。

 私はこの三人を知っている。同じ中学校の同窓だ。ただし仲が良い訳ではない。というか全く接点が無かったのだが。なんで訪ねてきたんだ? いやそもそも何でこの部屋を知っているんだ?

 何どうしたの、と言いかけたところで、

「おい、ちょっと来い」

 と、三人のうちのSという奴が怒気を含んだ声をかけてきた。こいつとは一時期同じクラスだったことがあった。しかし奴は懐かしさも何もない、私の顔すら知らない素振りだった。

 Sが前に立ち、残りの二人が脇を固めるように表へと連れ出されると、一台の車が停まってい、その後席に両脇を固められたまま押し込まれた(つまり後席の中央に座らされているわけだ)。

 車の中にはもう一人、Mがいた。こいつとは同じクラスだったし、ほんの僅かの間だったが、同じクラブにいたこともあった。Mはこちらに蔑むような一瞥をくれると、何も言わず前を向き直した。

  Sが口を開いた。

「てめぇ、スクーター盗んだろ?」

 はぁ? 何を言ってるんだこいつ? 仮にもお前、同級生だぞ、いきなりどういうことだ。Sが続けた。

「この間、Mのスクーターが盗まれてよ、ここに乗り捨ててあったんだよ。それで引き上げに来たらよ、そこの部屋の窓、てめえの部屋だな、そこが少し空いててめえがこっちを見てたんだよ。てめえが盗んだから気になって覗いてたんじゃねえのか?」

 ……この感情は何だろう。怒り、悲しみ、哀れみ、虚無感。中学校を卒業してから何年かを経て、ひとの部屋に来たかと思えば泥棒扱いか。そもそも、だ。私は当然盗んじゃいないし、部屋の前でガタガタやってたら何事かと覗くのは普通ではないか。そう弁明したのだが。

「お前が盗んだんだろ、おい!」

と全く聞く耳を持たない。

 

 奴らの力関係は分かってきた。Mの家は、この辺りの土地持ちだ、いわゆる名家だ、金はある。時折家の前に菊の絵が描いてる車が停まっているような家だ。S以下三名は、Mの家来だ。本人たちは友達と思っているのかもしれないが、明らかにMの手下だ、金魚のフンだ。

 

 私が盗む訳がない、バイクなら400ccのを持ってるし、スクーター「なんか」盗んで乗り回す理由がない。それでも私が盗んだというなら、指紋でもなんでも取ればいい。とりあえず警察に行こう。返ってきた言葉は、

「泥棒が何偉そうに騙ってるんだ、あぁ?!」

 本気で悲しくなってきた。同級だってのに顔も忘れたのか? 中学時代の私は、スクーターを盗むような奴だったか?

 奴らは警察に行こうなどとはしなかった。いや警察に行く気など毛頭無いのだろう。ただただ、私を問い詰めるだけだ。少し、身の危険を感じてきた。このまま車が走り出し、埠頭にでも連れていかれたら。海にでも突き落とされたら。両脇を固められている、逃げ出すこともできない。ヤバいかもしれない。

 とにかく私は、警察に行こう、の一点張りで通すことにした。Mはここまで振り向くこともなく、何も言わず、下っ端にすべてを任せている。外の気配を感じて窓を開けて見ただけで泥棒扱いなど理不尽すぎる。いいから警察に行こう、何ならここへ呼んでもらったっていい、何か呼べない理由でもあるのか。

 

 Mがゆっくりとこちらを向いた。色白の顔に表情は全くない。

「わかった、とりあえずわかった。おい、表に出してやれ」

 何がわかっただ、この野郎。ひと疑っておいてその態度は何だ。大物ぶってんじぇねえぞ、とまで言いかけたところで、放り出されるように車外へと引き出された。

 去り際、Mが言った。

「何かあったら、また来るから。その時はよろしくな」

 その間、Sはだだただこちらを睨みつけていた。一発ぐらい殴りたかったんじゃないだろうか、泥棒という悪人を殴りつける「正義」に酔いしれたかったんじゃないだろうか。

 

 部屋へ戻ると、悲しみが襲ってきた。

 泥棒扱いされたこと。それも同窓の奴らに疑われたこと。そして何よりも、同じ中学校の同窓だというのに、私のことなど見たことも会ったこともない、という態度だったこと。

 その悲しみがふつふつと湧き上がる怒りに変わるまで、そう時間はかからなかった。

 あいつらだけは許さない。たとえ友達面して寄ってこようと、よしんば、あの時は悪かった水に流そうと言ってきたとしても。まあ言うわけはないだろうが。二度と顔も見たくない。Mの家が没落すればいいのに。

 溢れ出る負の感情は二週間ほど湧き出し続け、今の今まで燻っている。

 

 

 

 と、そういうわけで、同窓会なんか行きたくないのです。

 昔の仲間たちに会うのはきっと楽しくない。皆幸せだろうから。

 初恋の人なんか来るわけない。きっともう遠い土地で幸せにしているだろうから。

 と、思い込むことにしています。

 

 そして、奴らの面なんか見たくもない。したり顔で寄ってきたらつばでも吐き掛けたくなるでしょうね、きっと。

  

 まあそれ以前に、今まで誘いが来たこともないのですけれども。

 ああ、嫌だ嫌だ。