怒らない
「あのう、ちょっと聞いてもいいですか?」
「ん? なに?」
「この間のリリース障害対応の時もそうなんですけど、あんまり怒らないですよね。なんでですか?」
「なに? 怒ってほしいの? そういう趣味?」
「いや違いますよ! 今までの現場のリーダーと違うなぁって」
「そうだねぇ、確かにものすごい勢いで怒る人もいるねぇ。実際、そういう人を見てきたり、その下で仕事したりもしたけどさ。まあいいや、自分語りをするけどいいかい?」
「はい、よかったら聞かせてください」
「障害が起きたらさ、まずは出来る限り今まで通りに復旧させなきゃならないよね?」
「はい」
「そのためにまずやんなきゃならないことってさ、原因の特定と対処。それが難しいならロールバック、ってところかな。そのためにコンテンジェンシープラン作ってるわけじゃない」
「そうですね、いただいている時間も短いですし」
「みんな頭使って手を動かしてどうにかしないといけないわけさ。……そこでね、例えばそこで僕が烈火のごとく怒ったとして、物事はいい方に進むと思う?」
「……」
「例えば君を怒鳴りつけるとなぜかDBが復旧してるとかさ、全員集めてお説教をするとあら不思議、不具合は一切消えました、とか」
「……あり得ないですね」
「でしょ? だったら怒るだけ無駄、そんな暇があったらまずは考えろ、手を動かせ、状況を乗り切るのが第一目標なわけだよ。怒ってる暇なんか無いじゃない。
それで障害に対処できたとして、基本は暫定対処、下手すらロールバックして手戻り。それの緊急リリース対策をしなきゃいけない。それがつい一週間前までの状況なわけだけど」
「はい、あれはきつかったですね」
「それだってさ、怒鳴ったらコードが沸いてくるわけでもないし。まあ状況は細かく確認するけどね。やっぱり怒ってどうなるもんでもないからね。
そんなんしているうちに、怒る気が失せるんだよね」
「はあ、なるほど」
「こんなもんでいいかい? 満足した?」
「はい、ありがとうございました」
「それじゃ、作業に戻って。
これからこの間のリリース障害の根本対策だからね。ミスの原因をとことんまで追求するよ。覚悟しておいてね」
ああ、怒るよりはこっちか。楽しそうな顔をしてなぁ。
了