#チープな戦闘描写を自己流にアレンジ選手権

「けっ、その程度かい」
 巨大な肉包丁をだるそうに下げ、『悪食の王』はシャープナーを忌々しげに壁に打ち付けて、俺の方を睨みつける。
 剣の技も糞もない、只々力任せに肉包丁を二撃、三撃と打ち据えてくる。それを避け、捌き、隙を見て『悪食の王』の肥満した腹に剣で斬りつけ、突く。
 だが、脂肪の層とそれを覆う革鎧のような硬化した皮膚が傷を負わせることを拒んでいた。どうすりゃいいんだ、こんなもの! 俺は頭の片隅で神を呪った。やつの赤く光る牙すら忌々しい。
 
 ……赤い光? 
 
 そういや今までの奴ら、必ずどこかしらが赤く光ってやがったな。そして、その光の場所が”奴らの弱点”だった。……ひょっとして俺は、敵の弱点が赤い光になって見えているんじゃないか? だとしたらこいつの弱点は牙だ、幾人の同胞を噛み殺したか分からない、忌々しい二本の牙だ。
 神様、さっきのは撤回だ。あんた最高だよ、この”神の眼”に接吻を!

 おれは、含み笑いをする。が、次第に笑みは大きくなり、いつの間にやら呵呵大笑と呼ぶに相応しい大声となる。
「どうした、打つ手がなくて気が触れたか?」下卑た笑いを浮かべ、『悪食の王』が煽り立てる。
「読めた、読めたよ、……お前の弱点」俺は大剣を納め、厚刃のナイフを逆手に構える。

 何を言ってやがる! と叫んで『悪食の王』は芸もなく、肉包丁を最上段から力任せに振り下ろす。それを半身に躱し、奴の肥満した腹を足場にして駆け上がり、首筋にしがみ付く。

「よう、テメェの息は臭ぇな」

『悪食の王』に物を考える暇を与えず、ナイフで二本の牙を抉り取る。『悪食の王』は断末魔も斯くやという叫び声を上げ、抉られた牙の跡からはいやな臭気を伴った、糞色の気が流れ出す。

 もう『悪食の王』はそこにいない。牙の能力で硬化していた肌は見る影もなく、あの巨大な肉包丁は、それを支える筋力すらなくなっているのか手元から滑り落ち、がらん、と大きな音が部屋の中で反響した。
 俺は大剣を構え直し、ゆっくりと奴に近づく。果たして、奴が最後に見た俺の顔は、どんなものだったろうな。

「じゃあな、哀れな『悪食の王』。……これは、アランの分だ」
 俺は、今まで餌食となった同胞の名を一人一人呼びながら、牙を失った化け物を斬り付け、突き通し、抉る。返り血が籠手を、鎧を、顔を染める。大剣にこびり付く黄色い脂肪は、奴が持っていたシャープナーで落とせばいい。

……

「あとは、『邪淫の王』『暴虐の王』『欺瞞の王』、か」
 俺は溜息を吐く。”能力”ってやつに気付いちまった。相手の弱点が分かる。剣技なら負ける気はしない。ほぼ無敵じゃねぇか。これで四天王退治か。面白くも何ともねぇ。

「まったく、強すぎるのも困りものだ」

俺は、”神の眼”を封印した。

 

 

 

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