オーダー

 四つ目の十字路を右へ折れてすぐに、その喫茶店はある。朝のひと時をゆっくりと過ごすとき、またじっくりと思索にふけるときなどに使わせてもらっている。
 少し渋くなっているドアを押し開けると、からんころんと決して涼やかとは言えない音が俺を店に招き入れ、マスターはじろりと入り口を見る。いつもの儀式だ。そして俺はお気に入りである右奥の席に陣取る。
 マスターが水とおしぼりを持ってやってくる。俺の注文は決まっているのだ。
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「マスター、いつもの」
「……、え?」
「だから、いつものやつちょうだい」
「いつもの? え? 何?」
「なんだよマスター、いつものだよ、い・つ・も・の」
「だから、何?」
「だからいつもの、って言ってんじゃないかよ! いつものアレだよ」

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 こいつもしつこいな。いつもの、なんて言われたって分かるわけないだろうよ。来るたび来るたび違うメニュー頼んでおいて、何が『いつもの』、だ。あんまりしつこいとパップラドンカルメでオーダー通すぞ、そんなもの置いてないけど。
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「だからご注文は?」
「いつもの!」
「いつものって、何ですか?」
「いつものはいつもの、だよ!」
「ああもう、いつのいつものですか!」
「いつものいつもの、だよ!」

 ……そして不毛な言い合いが続いたのだった。