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情事のこと

 女を抱いているときは大概そうだ。俺を上から見下ろす俺がいる。蛙のような格好で必死に腰を振る自分自身を眺めて、一時の情熱が急速に冷めていくのだ。それに加えて、目の前にある女の、べったりとした赤いルージュを引いた唇が俺の頭の中を一気に冷やした。無様な格好を晒しながら、冷静になってしまった頭で考える。情念のままに相手の体を求めたのは、いつが最後だったろうか、と。
 
 四年前か。最後に、狂ったように相手を求めたのは。客観的に自分を眺めることもなく、まるで一匹の雄として自らの欲望を吐き出した。そしてそのあと、別れ話を切り出された。
 相手の顔を、もうあまりよく思い出せない。長いこと付き合ったはずなんだが。一緒にいたことやらなにやら、すべて虚ろになってきている。だた、可愛らしい赤い唇と、小松菜は土が多く付いているから他の葉野菜よりよく洗うの、と、よりによってその話かよ、っていうことだけ覚えている。

 

 財布に金をしまい乍ら、べったりとしたルージュの唇の女は、ふふん、と小さく鼻で笑い、部屋を先に出て行った。まあ、そんなもんだ。身支度を簡単に整えて、俺も部屋を出ていく。ホテルの安っぽい楕円形の看板が、切れかけた蛍光灯の光に照らされて、安っぽさを更に増している。

 ちょっとだけ、呑みたい気分だ。駅とは逆の繁華街へ、俺は踵を返した。



お題:「小松菜」「赤」「楕円」

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