2017-04-01から1ヶ月間の記事一覧

台詞しかない茶番劇

「ここまでだ、もう逃げ場はないぞスムース・オストアンデル!」「くっ、もう後はないか。……しかし、なぜ滝だ? こういう場合、崖とか採石場じゃないのか」「リスペクト、ってやつだ」「何のだ」「技の1号、力の2号」「風車が回るやつか」「そういうことだ…

Rouge

シンプルな3ピースバンドが、 シンプルなブルース進行で演奏を始める。 それに重なる、囁くような彼女の歌声。 決して美しい声ではないが 聴いている者たちはみな心を奪われていた。 僕はただ、少し昔のことを思い出していた。 雨に打たれインクの滲んだ便…

葱坊主

伸びすぎた葱坊主の畑の中で彼女と僕はちょっとだけ大人になった 青いジャージなんてロマンチックじゃないけれど僕はジャージの手触りが好きでだから彼女を抱きしめた 彼女は華奢で抱けばそれは折れそうで葱坊主が揺れたのはきっと風のせいだけじゃない 了 …

実証実験

「……そう。念力、テレキネシスだね。それでこの鉄の塊を動かす」「いくらなんでもそれは無理なんじゃありませんか?」「うん、無理だろうね。位置を動かすのはね」「と言いますと?」「今回の実験では、分子を動かすのだよ」「分子を」「うん。この鉄の塊の…

レッスン

リタイアを目前にしたある日、若いディーラーが困り顔でやってきた。なんでもピットボスを呼んでくれ、と言っている客がいると。勝負がしたい、と言っているらしい。確かに私は以前にディーラーをやっていたが、ずいぶん前の話だ。それをなぜ? 若いディーラ…

歩美ちゃん

山奥の小さな小学校、それが僕の母校だった。過疎が進んでしまって、しばらく前に廃校になってしまったけれど。村に残った僕は冬の間に、校庭の隅の小さな花壇に三色菫を植える。花が開くと、それは笑顔のようで、この寂しい廃校舎が少しでも明るくなればと…

精霊使いになりたい

「……お見事。カモミール、ローズウォーター、ユーカリオイル、三つとも正解。」 私の師匠、勝手にそう呼んでいるだけだが、は、いつもと変わらずにこやかに言葉を発した。師匠が戯れに出した、ちょっとしたクイズ。その答え合わせ。このところ全問正解が続い…

疾る -はしる-

コーナーの入り口で少しハード目にブレーキングをして、マシンを倒し込んでいく。クロモリ鋼のダブルクレードル・フレームは、その身をわずかに捩るようにして、コーナーを駆け抜ける。その様は、愛撫に応える様にも似て官能的だ。こいつとなら、堕ちて行っ…

レストラン

その1 「それでは、これと、これ。あと、このサラダを」「……どちらのサラダでございましょう」「だから、この、……れサラダを」「恐れ入ります、もう一度仰ってくださいますか」「……気まぐれ、サラダを」「もう一度、大きな声ではっきりと!」「シェフの! …