トンカツ特区

数年前に、安全無菌な豚肉というのが出回り始めた。 その豚肉を使った、中がまだピンク色をしたミディアムトンカツが爆発的に流行った。 そして我が国の流行は、より極端になっていくのが常である。火の通り加減がよりレアなものになっていった。 次に始まる…

スモモの木

叔父の家の、裏の畑に二本のスモモの木があった その木から取れるスモモはとても甘く、爽やかに酸っぱかった そして、叔父と叔母はとても仲良く、畑仕事に精を出していた ある年、片方のスモモの木にいつもよりたくさんのいつもより甘い実がなった その年に…

坂道

黄昏時。 僕は坂をゆっくりと上っていた。 向かいから、黒の留袖を着た老婆が下ってきた。 すれ違いざまに互いに小さく会釈でもしたろうか。 誰か葬式でもあるのだろうか、 ここに来るまでそのような家はなかった。 あの老婆は、どこへ行くのだろうか。 僕は…

歴史になるというのはこういうことかもしれない

今日、東大生と高校生が競うクイズ番組を見ていたら、トキワ荘マンガミュージアムについての問題があったんです。この問題については高校生の方が回答をして、その回答についての解説を、自らしていました。実はちょっとここのところで違和感を感じてしまっ…

スピードボートが停まったのだ

バックパッカーでほぼ満席となった、この国境を越えるスピードボートは、終着の港を前に大河の中央で停止した。そして行き交う小船の引き波に揺られ、およそ2時間30分が経過した。 携帯電話が鳴る。私の到着を待っている、彼女からの連絡だ。 今どこにいる?…

Wildflowers

家のベルが鳴って扉を開けたらお隣の、幼なじみの君が着飾って立っていたこれからパーティーへお出かけでぼくも落ち着かないスーツ姿で君を出迎えた 普段の君とは全く違う赤いドレス、片口の大きく開いたドレス輝くストッキングに赤いエナメルのハイヒール一…

小さな祠

僕の家から小学校へ向かう途中、みつかばあさん家の曲がり角を左に曲がったすぐ先に、古ぼけた小さな祠があった。こんもりとした雑木林に囲われたそれは、例えば通学の朝であっても、日のカンカンと照り付ける真夏でさえも、そこだけは暗く近寄り難いものだ…

PowerShellからHyper-Vの仮想環境を、どうこうするのです。

ちょっと考えればわかることなんですが、メモ代わりに書きます。 Hyper-V上に構築した仮想環境は、Powershellからコマンドを発行することで、以下のことができます。 起動(Start-VM [仮想環境名]):電源ONに相当 シャットダウン(Stop-VM [仮想環境名]):…

信仰の始まりというものは

ラスベガスからの帰り、荒野の上空を飛ぶ飛行機。 見たいものと驚きの充足感と、 嫌な日常に戻る憂鬱さを抱え、その飛行機の中にいる。 そのとき 窓の外を眺めた時に見えた、機影を囲む虹。 ブロッケン現象、単なる科学的現象、 科学的現象だと分かっている…

選択

さて、どうしようかと考えている。 上手くいかない人生を呪ってヤケ酒を喰らい、いつしか深酒となり、終電を逃した深夜、知らぬ街で道に迷ってしまった。 迷った道の突き当り、三差路となった何所とも知らぬ分岐点に、黒づくめのスーツを着て、黒い帽子をか…

不貞の精算

「うん、私は平気だから。気にしてなんかいないよ」 隣に腰掛けている彼女は、僕の方を見ずにそう言った。 つい先日、浮気相手がうちに乗り込んできた。僕の留守を狙って。その日家に帰ると、彼女は感情もなく淡々と、僕にその事実だけを伝えた。怒ることも…

#チープな戦闘描写を自己流にアレンジ選手権

「けっ、その程度かい」 巨大な肉包丁をだるそうに下げ、『悪食の王』はシャープナーを忌々しげに壁に打ち付けて、俺の方を睨みつける。 剣の技も糞もない、只々力任せに肉包丁を二撃、三撃と打ち据えてくる。それを避け、捌き、隙を見て『悪食の王』の肥満…

シャトルコック

呼び鈴を押してからしばらくすると、階段を転げ落ちてくるような足音と共に玄関が開いて、千鶴が顔を出した。その時はニコニコとしていたくせに、来客が僕だと分かった途端、つまらなそうな顔になってしまった。 「これ、お前の母ちゃんに頼まれたやつだって…

チラシの裏の呟き その2

カラオケで歌う歌には2種類ある。 練習研鑽を重ねて上達を目指す歌。 自己満足上等、点数その他一切無視で歌う歌。 みんな違って、みんないい。

チラシの裏の呟き

セックスにおける快楽というのは 行為に及んだ自らの間抜けな姿に気付かせないためだと 近頃、とみに思う。

野狐

「……しかしよ、駿河屋は災難だったなぁ」「ああ、押し込みに入られて店にいた者皆殺しって。あれですね」「ひどいことするもんだねぇ」 小さな街道の、峠の入り口にある木賃宿で、二人の旅人がそんな世間話を始めた。 武州の山奥から甲州を抜けて海に至る街…

私を形作る音楽、そのアルバム10選 ラスト

ようやく10枚目までこぎつけました。 最後の2枚は邦楽で締めます。 10枚目については……、賛否ありそうですが、敢えて。 9 夢供養 / さだまさし初期さだまさしの大傑作。とにかく聴いてほしい1枚。 「ゆめくよう」です、「むきょうよう」ではないのでお気をつ…

私を形作る音楽、そのアルバム10選 その3

ようやく7, 8枚目でございます。 周りを置いてけぼりにするような、エスニックなお話でございます。 7 Mad Chinaman / Dick Lee欧米だけが音楽の発信地ではない、と気付かされた日 洋楽を聴く。それはきっとアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ。ひょっと…

無題

その一 朝の光よ 気は重く 何れ 俄雨の 降る 傘はきっと 邪魔となる その二 五百三十一段の 階の上の御社の 裏で貴方を 待っている いつまでも いつまでも アルバム紹介の巻はもうちょっと待っててね

私を形作る音楽、そのアルバム10選 その2

アルバム紹介その2、なんですが。 そこそこ気合い入れて書いたら2曲分だけになりました。許して。 それでは。 5Operation: Mindcrime / Queensrÿcheようこそ、コンセプトアルバムの世界へ! 私がヘヴィメタル/ハードロックに傾倒を始めたことは先に述べた。…

私を形作る音楽、そのアルバム10選 その1

フォーク、ロック、ジャズ、はあまり聴かないか、果てはタイのポップスまで。 私の耳から鼓膜や蝸牛管を経て大脳まで、音楽に漬かっている、というのは絶対に大袈裟ですが、まあそんな気概でいたいなとは思っています。 そこで、皆さんには大変にお節介な話…

人間の屑の独白、或いは、無題

人間の屑のお話。 「私を連れ出してくれませんか。お家に帰りたい」 幾度めだっただろう、彼女を「買った」ときにベッドの上でそう言われた。彼女は隣の国から来て、ここで働いている。彼女を連れ出すということはつまり、身請けをしてくれ、とそういうこと…

兄と弟

「……正直今になって、俺はお前の兄だ、お前の家族だ、と言われても実感がないんです。むしろ戸惑うばかりで。私には兄弟姉妹はいない、そう聞いていますから」 私は苛立って、目の前に座っている兄に言った。そうだ、兄弟姉妹はいないというのは嘘だ、私には…

「僕たちの思い」

はじめに 僕は幸せだったのだと思う。父さんの顔はよく知らないが、母さんや周りの人たちは僕の誕生をとても喜んでくれた。 僕が生まれたところは、緑の豊かなところだった。家の目の前にある緑の草原で、僕は夢中になって遊んだ。夜になれば母さんの胸のな…

怒らない

「あのう、ちょっと聞いてもいいですか?」 「ん? なに?」 「この間のリリース障害対応の時もそうなんですけど、あんまり怒らないですよね。なんでですか?」 「なに? 怒ってほしいの? そういう趣味?」 「いや違いますよ! 今までの現場のリーダーと違…

なぜならあなたは

たとえあなたが夜勤明けでとことんまで疲労していたとしても、 低血糖の症状が出て眩暈フラ付き倦怠感に襲われていても、 そう、あなたは目の前の人に席を譲らなければならない。 なぜならあなたは デブだから ハゲだから クサいから オヤジだから! そう、…

こわいまち

閑静な住宅街って、怖くないですか? 夜中は人通りが少なくて。 皆善人のような顔をして。 道行く人皆猜疑心が顔に出ていて。 危険なものがあるはずなのに それが覆い隠されている。 混沌とした繁華街の方が安心できませんか? 危険な人は分かりやすく危険な…

今更ながら、令和

年号が変わった。『令和』、というらしい。 私はこれで二回の改元を迎えたことになる。 一度目の改元、『昭和』から『平成』に変わるとき 私は自動車教習所の待合室にいた。 確か、仮免許試験の開始を待っていたのだと思う。 この日無事に仮免許試験に合格、…

惰性で死なない

なぜか、いままで生きている 何となく流されて仕事を失い 次の仕事は心を病んで戦線離脱 なんとか落ち着いて次を見つけたけど 内容も理解せずにあてがわれる仕事と 上がることの無い給金 次の現場が見つかるまで無給で待機 借りていたわずかな金を返すため …

「真景 累ヶ淵」を読む  八・新吉の改心、そして鎌

主な登場人物 新吉 : お久を殺した。甚蔵に世話になっている。 土手の甚蔵 : 羽生村の悪党。 累 : 三蔵の妹。 三蔵 : 質屋の主人。お久の叔父。 お久 : 江戸から新吉と逃げてきたが、新吉に殺される。 あらすじ お久の死体が上がり、それを叔父の三蔵が…