2022-01-01から1年間の記事一覧

美味い店

温泉街の緩やかな坂を下っていくと、右手に小さな食堂があった。 食堂の入り口は小さなショーケースとなっていて、持ち帰り用ののり巻きやおはぎなどが、数多くではないが並んでいた。 私は知っているのだ。こういった店は大概、美味い。 中に入ると、一人、…

とても短い物語

「さっきテレビで解説をしていたコメンテーターのさ、後ろに映っていた書架の二段目に、幻獣召喚の魔導書が一冊だけ置いてあったんだけど、気付いた?」

ホクトベガの話

ある人は彼女について、「ジンタが似合う」と評した。なるほどその通りだ、と思う。 成績だけで見えてくるものではない、彼女の駆け抜けたその生涯は、哀愁と呼んでよいのかもしれない。 そんな馬、ホクトベガの話をしたいと思う。 初めて彼女の名を知ったの…

送別会

その人とは、それほど仲がよかったわけではない、むしろ嫌われていると思っていたくらいだ。僕のいる社内のサービスカウンターに来るときはいつもむっすりしていて、たまに口を開くときには僕たちに対するクレームばかり。正直なところ、ちょっと苦手な女性…

ちょっとづつ公開していきます

永らくのご無沙汰をしております。 このところ、冊子「カストリ」の方に注力をしておりまして、とんとこちらの更新がされておりませなんだ。誠に申し訳ないことでございます。 申し訳ないついでのご連絡を。 冊子「カストリ」の第一号を、そろそろ絶版にしよ…

うなぎ

二人は差し向かいで、うなぎが焼きあがってくるのを待っている。 男は押し黙り、突き出しのお新香をかじりながら、ちびちびと酒などを口に運んでいる。女は俯き、膝の上で硬く握りしめた自分の両の拳を、じっと見つめている。 ウナギの油が爆ぜたのであろう…