昼休み ~休憩~

「子供の頃さ、保育園でも幼稚園でもなんでもいいんだけど」
「うん」
「おやつが出たでしょ」
「ああ、出たね」
「あれで好きだったおやつってある?」
「好きなおやつか。なんだろうなぁ」
「俺はさ、肝油ドロップが好きだったな」
「……やっぱりただものじゃないと思ったよ。よりによってそれか」
「そうかねぇ。あれは美味しかったと思うんだがなぁ」
「うちで出た肝油は、なんかグミの出来損ないみたいな触感で嫌だったな」
「でも時々気が向いたときに出るゼリービーンズはだめだった」
「あとさ、名前が分かんないんだけど、ビスケットに色付き砂糖の付いたやつ」
「ああ、動物の形しているやつか。あれ名前なんて言うんだっけ」
「知らないんだよねぇ。あれもすごく美味しいってわけじゃなかったけど」
「あと定番はラムネね」
「あれは必ず出たなぁ」
「どっちがよく出た?」
「どっちって、どんなどっちよ」
「大きいラムネと小さいラムネ」
「大きい方には魑魅魍魎が」
「舌切り雀じゃないっての」
「小さい方はさ、5,6個をひとまとめでセロファンに包まれててさ」
「ああ、あったあった。でも、」
「でも何だい」
「うちの方はクッピィラムネだった」
「リスの絵のやつか」
「そうそう」
「あと、変なのも出たんだよ」
「なに、変なのって」
「お湯の中に梅干し入れたやつ。それを飲むの」
「へぇ」
「子供には、なんか美味しいってものでもなかったな」
「今好きなおやつとかお菓子はある?」
「チョコレート。子供の頃も好きだったなシガレットチョコとか」
「大人の真似したクチだね」
「もちろん。いまじゃ本物の方ばっかりでさぁね」
「なんだ、”でさぁね”ってのは」
「すっかり肩身の狭い愛煙家ですよ」
「子供の頃は、大人ってたばこを吸うのが当たり前だと思ってたけどね」
「まさかベランダに追いやられるとは思わなかったな」
「会社でだって、こんな非常口の外れにしか喫煙スペースがないもんね」
「OA機器に悪影響があるとかさ、口実だよな明らかに」
「いやんなっちゃうね」
「お、時間だ。そろそろ戻りますか」
「先に行っててよ、この缶コーヒー飲んだら行くから」


オチというオチもなく

お題:「愛煙家」「保育園」「ラムネ」


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 マッチを一本、擦る。ぼうっ、と橙色の火が燈る。しばらく眺めて、灰皿に落とす。そしてまた一本、火を燈して、灰皿に落とす。そんなことを、ずうっと続けている。灰皿には、マッチの燃え滓が山のように積まれている。
 橙色の灯。ほんの少し、ほんの少しだけ、温かい。

 

 どこかで猫が鳴いている。ちょうど盛りがつくころだ。赤ん坊の泣き声のように聞こえて、……いつもなら、不気味、と思ったんだろうが、特段、何の感慨もない。むしろ、怒り。

 

 わかってる。元々、家庭を持った人を好きになったんだから。一方的な片思いなんだって、わかってる。わかってた。そのつもりだったのに。
 3年も付き合って、初めて身籠った。そのことを聞いた彼が、しまった、という表情を浮かべた後に躊躇なく、堕胎せ、と言った。その時、私の思いは冷めた。なんでこの人をやさしい人だと思ってたんだろう。
 2,3日したら、出血した。
 その翌日に、流れた。
 悔しかったけど、涙はなかった。

 

 愛は、もういい。いらない。疲れちゃった。
 でも、私は知っている。一度肌の温もりを知ってしまったら、独りが辛くなること。誰かの温かさが欲しくなってしまうこと。
 だから、マッチを擦る。橙色の灯が、少しだけ闇を照らす。そして燃え滓が残る。

 

 それが私だ。

 

 


お題:「片思い」「猫」「燃え滓」


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焼肉賛歌

 焼肉が食べたい。と言うか、モツが食べたいのだ。牛のモツ焼きを食べに行きたいのだ。

 

 タンは塩。あまり厚く切ってはいけない。薄く、芸術的に薄く。それでも残る上質な歯ごたえを恋人との逢瀬のように味わうのだ。逢瀬は檸檬のように酸っぱいものだ。

 

 ハラミはタレのよく揉み込まれたものに限る。知らない人もいるかと思うが、ハラミは横隔膜なので、分別上正肉ではなくモツになるのだ。ハラミには飯だ。ビビンパでもクッパでもなく、白い飯だ。どんぶりの中の白銀に、僅かながらのタレのシミを存在の証として、白米と共に胃の腑に吸い込まれていくハラミよ。

 

 ミノとホルモンは味噌ダレで。ともにじっくりと火を通し、タンとは違うその野性的な歯応えをしっかりと嚙み締めていただく。ミノはそのまま、ビィルで流し込む。ホルモンはと言えば、ここは白飯、と行きたいところだが、あえてキャベツの千切り。味噌ダレの濃厚な味と、千切りキャベツの淡白な爽やかさ。コラボレーションとかマリアージュとかそんなのはどうでもいい。抜群に合う、ただそれだけなのだ。ちなみにこの千切りキャベツを合わせて食べるのを、川崎スタイルというのだ。あまり馴染みは無いと思うが。

 

 シマチョウよ、ああシマチョウよ! そのこってりとした脂身よ! お前のその脂身はまるで想い続けた人のその柔らかい唇に、初めて触れる口づけにも似て。絡まる互いの舌のように甘くとろけていく。言葉など要らない、ただいつまでもこの官能的なキスを、永遠に。

 

 さあさあ、タン塩ハラミにシマチョウだ。ビィルだ眞露だマッコリだ。自動車なんぞで来てしまっては、酒も飲めない生き地獄。電車だバスだタクシーだ、公共機関を乗り継いで、目指すは焼肉もつ焼き屋。ミノにホルモンカルビ焼き、心ゆくまで喰らいましょう。脂がジワリと溶け出して、ジュウと炎に変わる前、美味しいところを見極めて、さあさあ食べたり食べたり!


了(腹減った……)


お題:「ホルモン」「電車」「キス」

 

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Hope I, II

Hope I

 小さな幸せでいいんだ
 僕が、明日も生きていこう、と思えるくらいの
 小さな小さな幸せでいいんだ
 希望、と呼んでもいい
 
 例えば
 ホテルに泊まったとき
 枕元に置いてある一片のチョコレート
 そんな小さな幸せ
 
 例えば
 昔から傍に居てくれた
 幼なじみの女の子が、好き、と言ってくれること
 そんな小さな希望
 
 いま僕が握っている
 喉元に突きつけた包丁を
 今すぐ捨て去ることができるくらいの
 そんな小さな幸せと希望
 

 そんな幸せでいいんだ

 

 

Hope II

 幸せはね
 いろんなところにあるんだよ
 
 当たり馬券みたいなものだよ
 競馬場のどこの窓口でも売っているんだ
 
 でも、みんななぜか
 外れを選んで買っていく
 
 幸せは、チョコレートみたいなものだよ
 ゴディバだったりチロルチョコだったり
 
 ゴディバは確かにおいしいけれどさ
 チロルチョコならすぐ近くにあるんだ
 
 君が握っている包丁だって
 幸せを作る手助けができる
 
 キャベツを刻み、魚をさばき
 鶏肉を切り分けて、料理をするんだ
 
 決してそれで
 君を傷つける必要はないんだよ
 
 いろいろなところにある幸せ
 それを少しづつ探していくのがたぶん人生なんだよ
 
 表に出て
 日の光を浴びよう
 
 人間の心はきっと
 光合成をしているよ
 
 

 

お題:「ホテル」「チョコレート」「包丁」

 

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No Reason Why

 土間の真ん中には、アラジンの石油ストーブが一つ、上にはアルマイトの大ぶりなヤカンが乗ってい、しゅんしゅんと湯気を上げている。


 ストーブの上面が出るように真ん中に穴をあけたテーブルがあり、そしてその上にせんべいなどが入った菓子盆と、人数分の湯飲み茶碗。そして周りに丸椅子、ひじ掛け付きの椅子他、いろいろと腰掛けが並んでいる。

 

 だが、この場に足りないもの。人の気配。

 

 床に、人が、いや、人だったものが三つ、横たわっている。2人は喉を切り裂かれ、もう一人は正面左肩から袈裟斬りにされ、いずれも絶命している。つい今日の日中までこの土間で作業をしていた人間である。
 
 いや、人の気配はある。ただ一人だけだが。
 その場に返り血に塗れた男がひとり、立ちすくんでいる。

 

”OK, Boss. It's done.”

 

 ただ一つの人の気配がそう呟いて、黒い通信機らしきものをイヤホンごと投げ捨てる。そしてそのまま土間から出て行く。

 

 イヤホンから音が漏れ聞こえる。
 あまり有名ではない演歌に続いて、パーソナリティの声。

 

 雉虎の猫がいつしか土間に入り込み、その主だったもののそばで一つ、

 にゃあ、

 となく。
 

 そして座布団の敷いてある椅子に飛び乗り、身を丸めた。

 


 

お題:「ストーブ」「椅子」「イヤホン」

 

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人工無能

Lucy(プロトタイプ)
"There is a paper bag."


Lucy(第0.5世代)
"There is something in this paper bag."


Lucy(第0.5世代_日本語パッチ対応)
「何かある この紙 中 かばん」


ルーシー(第1世代)
「紙のバッグ 中 何か ある」


ルーシー(第2世代)
「紙袋に入っている 何か」


ルーシー(第2世代_画像認識対応)
「紙袋(茶色:印字:□ぱん) 何か 入っている」


ルーシー(第2.5世代_画像認識対応_漢字認識型)
「紙袋(茶色:印字:餡ぱん) 入っている 何か<(第一候補:餡ぱん)」


ルーシー(第3世代)
「紙袋 餡ぱん 入っている」


ルーシー(第4世代_日本語対応)
「紙袋に 餡ぱんが 入っている」


るぅしぃ(第5世代_CoolJapanモデル)
「餡ぱん」

 

進化、である。

 

 

お題:「餡パン」「紙袋」「ルーシー」

 

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裏山の決斗

”小林へ。裏山へ来い。決着をつける”
 とだけ書かれた手紙を俊平から渡された。僕は内心、めんどくせぇなぁ、と思ってはいるのだが、ここらで決着をつけるのも悪くない、と思い始めていた。
 俊平が僕のことをライバル視しているのは知っているんだ。なんでそうなってしまったかも知っている。単純に言えば嫉妬だ。
 僕は先日、町会の夜回りに参加してそれなりの成果を挙げてきた。だが俊平はまだ町会の行事には声をかけられていない。この町では町会の呼びかけがあることが、一人前の大人である証のようなものだから。だから俊平は僕に嫉妬しているのだ。
 文面からすると、今すぐなんだろうな、と思う。なのでいったんうちに帰って準備をしてから向かうことにする。準備を怠っては後手に回るかもしれない。
 15歳にお祝いで買ってもらったハードレザーアーマーを身につける。オーダーメード品だけあって、とてもしっくりと体になじむ。そして、武器はブロードソードを選んだ。

 裏山へ向かったが、ご指定の場所に俊平の姿はなかった。が、俊平の殺気だけはビンビンと伝わってくる。雑木林のようになっているこの場所の、とある一本の木からだ、と気付いたのだがそれよりも早く。

「小林ぃぃぃ! 死ねぇぇぇ!」

という叫び声と共に俊平が上から降ってきた。と思えば鉄製のメイスを僕の頭めがけて振り下ろしてくる。体をひねり、何とかそれを躱した。俊平のメイスが地面に食い込む、が、そのまま僕のあごの先をめがけて俊平のメイスの軌跡がVの字を描く。それをブロードソードで迎撃したが、俊平の馬鹿力の前では止めるのがやっとだった。

「決着をつける、でいいんだな?」
 僕は俊平の真意を尋ねた。
「もちろんだ、小林ぃ!」
 と答えながら俊平は僕の腹に前蹴りを一つ叩き込んで、距離を取った。今日の俊平は気合が違う、勢いが違う。
「昔っからなぁ、小林ぃ、てめえが気に入らなかったんだよ!」
 相当な重量があるだろうメイスを、女性のウエストほどもある太い腕にモノを言わせて、他人の頭をめがけて滅茶苦茶に振り回してくる。だがそれも、なんとなくではあるが冷静に躱していく。

 そろそろケリをつけよう。僕は身を低くして、俊平の懐に潜り込んだ。そしてそのまま躊躇なくブロードソードを、腹のあたりをめがけ切り上げる。鼻先辺りを切りつけたか、鮮血が少しながら散った。

 ここからは剣の動きを止めずにただひたすら斬りつけていく。俊平は斬撃を防ぐため後手後手に回っている。それが苛立たしいのだろう。その時に若干のスキができた。力を込めて薙ぎ払う。そして、俊平の頭が、中空高く跳ね上がった。
 俊平の馘を拾い上げ、備え付けられたゴミ箱に投げ捨てる。ここではそういったことが往々にして起こる。恨むなよ、俊平。

 

お題:「小林」「ゴミ箱」「裏山」

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