精霊使いになりたい
「……お見事。カモミール、ローズウォーター、ユーカリオイル、三つとも正解。」
私の師匠、勝手にそう呼んでいるだけだが、は、いつもと変わらずにこやかに言葉を発した。師匠が戯れに出した、ちょっとしたクイズ。その答え合わせ。このところ全問正解が続いて、私はとても気分がいい。
「私、精霊使いになれますか?」
思い切って、師匠に尋ねてみる。
私は精霊使いになりたいのだ。師匠のように、精霊使いとして、冒険の旅に出たいのだ。当然、親からは猛反対を受けた。特に母からは。父は普段何も言わないのだが、今回だけは反対をした。私が粘って粘って、やっとのことで師匠の所なら、と許可が出たのだ。
「今の問題は、セージやヒーラーとしての知識ですからね。まだまだこれから」
師匠は結構厳しい。でも、それももっともだ。キッチンの火を入れるのに、私はまだサラマンダーすら使役できていない。
「私が教えられるのはそういった知識だけ。精霊使いになるのは、あなたと精霊たちの契約の問題ですからね」
「でも、見込みはあるんじゃないかしら。”あの”師団長ウォーケンの娘ですからね」
そう、私の父は師団長をしている。なんでも昔、冒険者としてこの国の最大の危機を救った英雄のうちの一人として、今の領主様に取り立てていただいたのだとか。その時に一緒に冒険をしたのが、今目の前にいる師匠。2人とも、そんな大きなことを為した人とは思えない。父は冒険者のころの話なんて全くしないし、師匠もこんな物静かな人だし。
「あの、お師匠様。父はどんな人だったんですか?」
「あなたのお父さん、ウォーケンはね、あのまんまの人でしたのよ。口数が少なくて。でも、剣士としての腕は確かだし。何よりも仲間のために尽くす人でしたのよ。私も幾度となく助けていただいています。ウォーケンはねぇ、素敵な人ですよ」
いま、師匠がちょっとだけ乙女の顔になった気がする。
「さ、暗くなってきましたね、ランプを燈しましょうか。やってみますか?」
私はゆっくりと、小さく、でもしっかりとした意志をもって詠唱を始める。
「小さき竜、炎を宿し眷属よ。我が僕となりて……」
師匠の訂正が入る。
「我が友として。」
「…我が友として此れに願う。火口を切りて灯の種とせよ」
「……燈りましたね。まずは精霊たちと心を通わせる、これが大事ですよ」
「はい!」
精霊使いになりたい、ううん、なる。
了
お題:「サラマンダー」「灯」「ユーカリ」
疾る -はしる-
コーナーの入り口で少しハード目にブレーキングをして、マシンを倒し込んでいく。クロモリ鋼のダブルクレードル・フレームは、その身をわずかに捩るようにして、コーナーを駆け抜ける。その様は、愛撫に応える様にも似て官能的だ。こいつとなら、堕ちて行ってもいい、堕落の道へと進んでもいいとさえ思える。まあ、相手は二輪車なんだが。
決して限界近くまで追い込まない。誰よりも速く、なんてのはガラじゃない。誰よりも楽しく、そう誰よりも。コーナーを駆け抜ける度に絶頂を迎えるかのような愉悦、それだけは誰にも譲れない。
この、ほんのわずかに残された旧国道。いまとなってはこんなとこに走りに来る同好の士もめっきり減ってしまって、平日であれば貸し切りも同然だ。電気自動車・自動運転が大半となってしまった今では、この旧国道は忘れ去られようとしている。行先まで自分で辿り着こう、なんて酔狂は居なくなっていくんだろう。
対向から一台、軽やかにコーナーを駆け抜けてくる、大昔のレーサーレプリカ。どんな人が乗っているんだろう、まあ、誰でもいいさ、同志よ。
私は拳を突き出し、彼はピースサインで其れに応えた。
了
nina_three_word.
Including
〈 フレーム 〉
〈 堕落 〉
レストラン
その1
「それでは、これと、これ。あと、このサラダを」
「……どちらのサラダでございましょう」
「だから、この、……れサラダを」
「恐れ入ります、もう一度仰ってくださいますか」
「……気まぐれ、サラダを」
「もう一度、大きな声ではっきりと!」
「シェフの! 気まぐれサラダ!!」
「シェフの気まぐれサラダですね!!」
「……なんでこんな恥かしい名前のサラダしかないんだよ」
その2
「ご注文は」
「ああ、ペペロンチーノを2人前。一つは唐辛子を抜いてほしいんだが」
「……はい?」
「私の連れは辛いのが苦手でね、だからペペロンチーノの唐辛子を抜いてほしいんだ」
「失礼ですが、お客様」
「なんだね?」
「ペペロンチーノから唐辛子を抜いてしまったら、それはもうペペロンチーノと呼べません。そのようなものをお客様にお出しすることはできませんので、悪しからずご了承ください」
「いや、ただ唐辛子を抜いてくれるだけでいいんだが」
「それはもう、ペペロンチーノではございませんので」
「いや、名前はどうでもいいんだ、唐辛子を抜いてくれ」
「恐れ入りますが、それではお客様にお出しすることができません。なぜならそれはペペロンチーノではございませんから」
「じゃあ、”唐辛子を抜いたペペロンチーノ”を出してくれないか」
「それは出来かねます、お客様」
「なぜだね」
「”ペペロンチーノ”と呼ぶことができないからでございます」
「もういい、ほかの店に行く」
ほぼ実話。
了
はるよこい
はるよこい
はるよこい はやくこい
あるきはじめた みーちゃんが
あかいはなをの じょじょはいて
おんもへでたいと まっている
という、童謡があります。
この歌詞、これと言って不思議なところなんてありません。
が、ただ一つ。
「じょじょ」って何だ?
というところから、独自の解釈を行ってみることにしました。
世間ではそれを「牽強付会」と呼ぶらしいです。
まずはキーとなるこの行から。
あかいはなおの じょじょはいて
じょじょ。じょじょです。
……ジョジョ? です?
つまりこうですか。
「赤い鼻緒の ジョジョは居て」
草履か雪駄か下駄かはわかりませんが、どうやら赤い鼻緒の履物をつけた、ジョースター家の末裔がどこかにいるようです。予言めいてますねー。さて、どこにいるのか。一つ上の行を見てみることにします。
あるきはじめた みーちゃんが
そう、「ミーチャンガ」、です。要塞や収容所? おそらく要塞です。前の所に、「歩き始めた」とありますから、多足歩行型移動要塞「ミーチャンガ」、を現わしているのでしょう。なのでここは
「歩き始めた ミーチャンガ」
ですね。
おんもへでたいと まっている
ここは普通に解釈をするべきですね。草履はいたジョジョが移動要塞「ミーチャンガ」の外へ出たがっている、ということです。つまりここは普通に
「おんもへ出たいと 待っている」
です。
ここで一行目へ戻りましょう。
はるよこい はやくこい
普通に理解をすれば、
「春よ来い、早く来い」
と春を待ちわびる心を表しています。でも、はる? 季節の春? 春が来れば移動要塞「ミーチャンガ」の外に出られるんでしょうか?そうではなさそうですよね。では、「はる」とは?
ここで思い浮かぶのは「ハルサーエイカー エイカーズ」。そう、沖縄のヒロインの物語です。
主人公は田畑ハル。まさしく彼女を呼んでいるんです。
「ハルよ来い 早く来い」
ということですね。
まとめると、
ハルよ来い
ハルよ来い 早く来い
歩き始めた ミーチャンガ
赤い鼻緒の ジョジョは居て
おんもへ出たいと 待っている
なんとサスペンスに満ちた唱歌だったんでしょう!
牽強付会、終わり!
※「じょじょ」とは、草履の幼児語です。
甘
喉を通り過ぎる嫉妬は
とてもとても苦くて
お砂糖に漬けてしまえば
甘美なお菓子に変わるのかしら
了
nina_three_word.
Including
〈 砂糖漬け 〉の〈 嫉妬 〉
埋めちゃえ
今、目の前にある
半透明の硝子で出来た楕円球
聞けばそれは
言霊を記録するカプセルだという
ただし
誰が
何を
記録したかもわからないという
流れ出る言霊は
福音だろうか
それとも災禍だろうか
いっそ割ってみたい気もするが
穴掘って埋めちゃえ
了
nina_three_word.
Including
〈 カプセル 〉
〈 言霊 〉