金色の風が吹き抜ける

 はい、アイドルの話をすればいいんですね。人間ではないんですが、構いませんか? あ、いや妖怪とかそういうのではなくて、馬なんです。競走馬。

 もう20年以上昔です。岩手の地方競馬から中央に転厩してきたユキノビジンっていう牝馬がいたんですよ。成績で言うと、桜花賞2着オークス2着。強かったんですよ。ただ、同期にいたのがベガとホクトベガだから。派手なお姉さん二人に囲まれた、東京に出てきたばかりの女の子って感じですかね。
 この子がもうね、可愛かったんですよ。綺麗な栗毛で鼻筋に流星がしゅっと通っていて。それに厩舎の人がやってくれていたんでしょうね、たてがみを丁寧に三つ編みにしててね。お嫁さんにしたいくらい可愛い。……あ、引いてますよね。本当に可愛かったんですよ

 そんな栗毛のお嬢さんが、GIのファンファーレが鳴り響いてゲートに収まり、スタートと同時に競走馬の顔をして駆け始める。そう、そのために生まれ、訓練したんですからね。その年の牝馬の本当にひと握り、18頭の中を駆けていく。彼女の走りには美しさがありました。そしてゴール前を颯爽と、金色の馬体が風となって通り過ぎていく。これが一着だったら! あの時は本当に、ベガさえ同期にいなければ、って思いましたよ。

 その後ですか? エリザベス女王杯はあんまり振るった成績ではなく、その後足元があんまりよくなくて繁殖入りしたんですよね。最後まできれいなおばあちゃんだったんだろうな、と思います。そこから先はさすがに追い切れてなかったです。僕の中では、今でも綺麗なままですよ。

 いや、そのマグカップの写真は違います。それはユキノビジンじゃないです。ほら、鹿毛馬だからちょっと茶色が濃いでしょう。栗毛馬はもっと金色に近いんですよ。こっちのは、さっき話にも出たホクトベガユキノビジンが地方から中央へのシンデレラのような話だとしたら、彼女のほうはもっと波乱に満ちた話です。それはまたそのうちにお話しできれば。

 こんなところでいいですか?どうもありがとうございました。

 

 

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