私を形作る音楽、そのアルバム10選 その3

 ようやく7, 8枚目でございます。

 周りを置いてけぼりにするような、エスニックなお話でございます。

 

7

Mad Chinaman / Dick Lee
欧米だけが音楽の発信地ではない、と気付かされた日

 

 洋楽を聴く。それはきっとアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ。ひょっとしたらイタリアやスペインかもしれない。いずれにせよそのほとんどは「西洋の音楽」を指しているだろう。
 或る日の深夜番組だったと思う。ただFMだったかTVだったかは忘れた。その番組で、シンガポールの曲として、Dick Lee の「Mad Chinaman」が紹介された。これが、とても素敵な曲だった。少なくともその当時の私にはそう捉えられた。
 私が最初に言ったような「洋楽」が好き、っていう人は多いと思う。でも多くの人が、どこか心の奥底で思っているでしょう、その「洋楽」には「アジアは含まれない」。
 Dick Lee は、その概念を根底からかき回してくれた。まるで炊き上がったコメを底のほうからかき混ぜる、必然の儀式のように。
 そして彼はもう一つ、アジア人のアイデンティティとして、「Banana」という概念を教えてくれた。
 バナナの中身は白い。でもその皮は黄色い。
 白人に肩を並べようとする黄色人種に対する侮蔑的な比喩でもあるけれど、彼はそれを逆に捉えた。

“バナナも皮剥きゃ白いんだよ、白人と変わらない、だから僕は「Banana」だ”、と。

 そんなわけで、私はいろいろとこの曲と、この人の言動に影響を受けた。

 

"アジアの音楽はダサい? ちゃんと探したの? 聴きもしないで言ってるだけじゃないの?"

 

 そういう考えができるようになった。なってからはまあ、探した探した。シンガポール、台湾、香港、そしてのちにタイの音楽に行きつくのだけれども。それは次でちょっとお話しする。

 Dick Lee の「Mad Chinaman」、iStoreでも買えるので興味のある方はぜひどうぞ。
 リンクはライブ版ね。
https://youtu.be/gopHwd5lI1Y

 

 

 

8
China More / China Dolls
汎亜州的アイドル。知らぬは日本人ばかりなり。

 

 ユニット名は「China Dolls(中國娃娃)」だけれども、メンバーは中国系タイ人二人組。
 アジアの音楽探し、って言ったって、とりあえずその当時はネットラジオのストリーミングを言葉も分からず聴くくらいしかできなかったので、若干悶々としていた、と思いきや。
 二十世紀末から、ちょっとばかり別件でタイを含む東南アジアに嵌って年一くらいで出かけるるようになっていたのだな。まあ陸路での国境越えに一種の喜びを感じていたわけなのだけれど(さあ、スタンプラリーだ!)、いたるところでこの二人組の曲がかかっていた。
 カンボジアとの国境を越えても、ベトナムに入って行っても、この二人組の曲がかかっていて、現地の人もみんな知っているわけで。そこはそれ、違法コピーなんだけど。
日本に戻って、中華街の雑貨屋さんのCDコーナーなんかを漁っても、この二人の曲が出てくるのよ、それもちゃんと中国語版にして。だからこっちは違法コピーではないのね。

 このアルバムの前に、「Muay Nee Kah」という曲があって。それの歌詞が刺激的だった。

 

"あたしたち目が細い、中国系のタイ人だけどそれがどうしたの?"

 

と挑発的な言葉を明るく、可愛く歌うのだ。

 その勢いを受けて、コメディアンとのユニット、China Guan名義でアルバムを出し(これもご機嫌な曲揃い)、2000年にこの「China More」が発表される。

 その中でも「Oh, Oh, Oh」と「H.N.Y.」が、まあよく売れた。さっき言った通り、東南アジア中で聴くことができた。あらゆる国で、あらゆる言葉でカバーされた。
 だけど、日本には入ってこなかった。きっと「東南アジアの音楽だから」。この色眼鏡が外れるのは、「あにゃまる探偵 キルミンずぅ」の主題歌、NekoJumpの「Poo」まで待たなければならなかった。


 余談だが、タイポップスにとって、2000年は間違いなく豊穣の年だった。
 China Dollsもそうだが、LOSOが「Rock'n Roll」でどこに出ても遜色のないハードロックを、そして当時人気の女性シンガー7人を集めたスーパーグループ「Seven」の洗練された上質のポップスを世に出している。本当にいい時代だった。


 China Dollsのは、そうねぇ、「Oh, Oh, Oh」で行きましょうか。
 https://youtu.be/FzYBR8NtMrE

 

 

 それではあと2枚

 何が出るやらお楽しみに :-)