生け花

「旦那様。何をしてらっしゃるんですか」
「ああ、番頭さんかい。今日は花を生けようかと思ってね」
「花、ですか」
「そう、花。一輪挿しなんか風流でいいねぇ」
「さようですな」
「一輪挿しはね、淡い色の花ももちろんいいけどね、濃い、はっきりとした原色なんかも乙なもんだよ。ほらこの赤のカーネーションなんかどうだね」
「へぇ、素敵なもんですね。旦那様を見直しました」
「今までどんな目で見てたんだね」
「こんな目でございます」
「なんだね、目を思いっきり横に引っ張って。相変わらずあたしのことを馬鹿にしてるね」
「それはそうと、花瓶じゃないんですね」
「うん、壁に自動小銃を掛けてね。その銃口に生けてみた」
「なんでまたそんな頓狂なことを」
「あたしなりのメッセージ、ってやつかね」
「戦争反対、とかですか」
「おや、よくわかったね」
「分り易すぎます」
「そうかい?」
「そこが旦那様らしくて良いかと存じます」
「褒めても小遣いは出ないよ」
「承知しております。ところで、この銃についてるワニ口クリップは何です?」
「ああこれね。ここに押し花を挟んでね、見に来た人が持って帰れるようにね」
「旦那様、熱か何かおありで?」
「あたしはいたって正常ですよ」
「雨でも降りませんかねぇ。小僧たちに貸し傘の用意をさせないと」
「今日は何を言われてもそんなに腹も立ちませんよ」
「よい心がけでございます」
「今日も一日、」
「よい一日でしたな、旦那様」



お題:「クリップ」「戦争」「花」

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決戦兵器

「ようやく完成したので君に真っ先に見てもらおうかと思ってね」
「光栄です、博士。最終決戦に向けての人類の英知を誰よりも早く目の当たりにできるとは」
「さあ、この奥だ。……ああ、そこに段差がある。気をつけたまえ」
「はい。……! これが!」
「そう、最終決戦用人型兵器”リセ”だ」
「”リセ”、ですか」
「どうした、何をそんなに気のない声を出す」
「いえ、方向性がちょっとわからなくなったもので」
「何がどうわからないというのだね」
「いやあの、人型なのはわかるんですが、……なぜセーラー服風なんですか?」
「趣味だ」
「趣味」
「そう、趣味」


「このスカートみたいなのもそうなんですか」
「これは実用も兼ねておる。推進用のバーニアの保護と追加装甲としての役割を持っておる」
「プリーツ、要りましたか?」
「気に入らんなら、フレアスカート風にもできるぞ」
「(そういう問題じゃないんだけどな)」
「何か言ったか?」
「いえ、別に」

 

「この人型兵器はな、搭乗者の呼吸、脈拍、脳波、筋肉の微動、そういったものを連動させることで動くのだ」
「つまり、動作について思考したとおりに動きをトレースするということですか」
「そう、考えた通りに動く。その思考とのリンクをより確実なものとするために、専用のユニホームを用意した」
「どんなものですか……なんとなく想像はつくけど」
「いま私が白衣の下に着ているものがそうだ」
「これはッ! 黒の全身タイツ?! しかも胸に矢印(↓)!」
「さらにミニスカート風のヒラヒラもついておる」
「これもやはり……」
「趣味だ」
「趣味」
「そう、趣味」

 

「博士」
「なんだね」
「これ、やはり私が乗るんですか」
「もちろんだ」
「このユニホームを着て?」
「そのとおり」
「……どうしても、ですかぁ?」
「泣くな泣くな。君のその美貌に合わせてデザインしたものばかりだ。着て似合わんことはない」
「センスが古すぎなんですよぉー」
「大丈夫だ。10年もすればファッションは一周してくる。それを待とう」
「これから最終決戦だって言ったじゃないですかぁ」
「それを乗り越えれば、その先30年だろうと50年だろうと続けることができるではないか。だから、勝とう」

 


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Including
〈 呼吸 〉
〈 プリーツスカート 〉

可能性

たとえば、あなたに片思いをしている世界

たとえば、あなたが片思いをしている世界

たとえば、あなたと私がどこまでも愛し合っている世界

たとえば、あなたと私がどこまでも憎しみ合っている世界

たとえば、私なんていない世界

たとえば、あなたがいない世界


どの可能性を選んでも

圧し潰されそうで

耐えられなくなりそうで

だから今ある

この世界で

あなたの手を取り

生きよう



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Including
<平行世界>

……ナンカチョトチガウカナ……

知っちゃダメなの

「よーしカット! いい感じだよー」
「監督、監督。ちょっと」
「なんだ」
「ちょっと小道具の方からですね」
「なんかあったのか」
「あの取り出した銃にサプレッサーつけるじゃないですか」
「そうだよ、このドラマ ”知ってはいけない” のな、あそこでこう、スリルとサスペンスがグワーッと盛り上がっていくんじゃないか」
「その、それが言いづらいんですが」
「なんだよ、早く言えって。何かまずいことでもあるのか」
「そうなんです」
「ここまでのシーンでおかしなところなどなかったぞ。何がまずいんだ」
「あの、小道具さんがですね」
「小道具がどうした」
「サプレッサーつけるっての知らなくて、リボルバータイプの用意しちゃったんです」
リボルバーのほうが拳銃らしいスタイルで見た目にアピールするじゃないか。何がまずいんだね」
「あの、リボルバーって、サプレッサーつけても消音の効果、全くないんです」
「……へ?」
「ですから、たぶんこの後音効さんが、ぷしゅ、とか効果音つけますよね」
「そうだな、消音器つけてるからそんな音だな」
「音、消えないんですよ、あれじゃ」
「見てる奴はそんなの分からないだろう」
「最近のマニアを侮っちゃダメです、監督。絶対気付きます」
「気付くかね」
「絶対に。そしてツイッターで大炎上間違いなしです」
「そうかそれも困るな」
「小道具用意しなおして撮り直し、ですかね」

「あーーー!!」

「なんだ?!」

「あーーー! サチュってるーーー!!」

「な、なんだと?!」

「表出たところから完全にトンでます!!」

「ここにきてなんでサチュレーションなんか起こすんだ! ちゃんと露出測ったんだろうな」

「まさかこんなに日差しが強いとは思いませんでしたー!!」

「スコールのシーンだと言っただろうが! 照明! 何やってんのもう!」

「あーもう全部ひっくるめて撮り直しー!!」


 会議だけではなく、撮影も踊るのである。
 


お題:「サスペンス」「サプレッサー」「サチュレーション」

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知ってはいけない

 いま、この国は急激な成長を遂げている。残念ながら我が母国のことではない。東南アジアのとある国、その主要都市に俺はいた。抜けるような青空と白く流れる雲。それを徐々に削り取る高層建築物。まさにスカイスクレイパーという奴だ。どの国でもそうだが、そんな繁栄は結局上澄みに過ぎない。その奥に澱んだものこそ、その国の本当の姿、本当の人の営みだと俺は思う。

 ちょっとばかり格好をつけすぎた。この国のそんな闇の部分を取材に来た俺は、街角の路上カフェで情報屋と落ち合う段取りをつけて今まさにそこで待っているのだが、すでに約束の時間から30分は経っている。すでにどろりとしたコーヒーも3杯め、練乳ばっちりの、頭に響くような激甘コーヒーもつらくなってきた。隣じゃ20くらい年下の現地女性を連れた同胞が、イチャイチャよろしくやっている。

「ありさわサン、待ちまちタカ?」
「アリサワは先にホテルで待ってますよ」
 答はこれでよかったはずだ。

「……ほてるマデ送りマショ。後ろに乗てクダサイ」

彼のバイク(排気量のでかいカブだ)の後ろに乗ると、なかなかのスピードで走り始めた。この音なら会話の内容を聞かれる心配もないと思ったか、時折こちらに話しかけてくる。

「これから行くところは、本当にヤバイヨ。なんで行くの」

ものすごく流暢に俺の国の言葉を喋ることに軽く驚く。待ち合わせ場所でのあれはフェイクだったのだ。

「オーダーの通りだよ。行方不明になった日本人女性について取材している」
「知っていいことトいけないことアルヨ。大丈夫?」
「知っちゃいけないことなんて、この世の中にはないよ」

 俺は嘯く。この都市伝説だって、本当かどうか見極めたいじゃないか。
 ダルマ伝説。女性海外旅行者が行方不明になって、両手両足を落とされて見世物がてら客を取らされる、という話。俺はそれを追っている。

「着いた。ここダヨ」

 俺は情報屋に少し多めの札を握らせて、その建物の中に案内をしてもらった。


 肩から上腕にかけて刺青を入れた男二人に担がれて、幾度となく殴られ血と痣だらけの男が路上に放り出された。
 折しもスコールがアスファルトを叩き、この細い路地を川のように変えている。その中に顔を半分うずめるように、うつぶせに倒れたままである。
 刺青の男たちの間から、情報屋が顔を覗かせる。

「言ったでしょ、知っていけないことある、って。ダルマはね、そんなのないよ。ウワサウワサ。でもね、ほかは知っちゃダメ」

 刺青の男の一人が近づき、懐から銃を取り出し、消音器を取り付けた。


次に続く?


nina_three_word.

〈 上澄み 〉
アスファルト
〈 だるま 〉

 

もう一つの名前

「今日ね、”もたけゆしし”と”わみべつごら”がひゅうが君ちに来てたの」
「”わみべつごら”は、”とままをいと”と仲がいいんだけど、”もたけゆしし”とは普通なの」
「”とんぎぼしら”は暴れん坊だから、皆に嫌われてるよ」
「みんなのお友達はね、”けそ”。”けそ”はみんなと仲がいいんだ」
「”けそ”は”つぺぶ”とも仲がいいんだよ。ほかのみんなは”つぺぶ”が嫌いだけど」
「これね、みんなひゅうが君が名前を付けたの。名付け親なんだよ」
「みんなひゅうが君のお父さんの名前なんだって」
「ひゅうが君のお母さんはみんなの名前を知ってるけど、ひゅうが君は名前を知らないの」
「だからひゅうが君が自分で名前を付けたんだって」
「”もたけゆしし”は、お酒をたくさん飲まされたんだって」
「”わみべつごら”は、お薬を飲んだらたおれちゃった」
「”とままをいと”は、海に行ったときに遠くまで行っちゃったんだって」
「”とんぎぼしら”は、バットでホームラン」
「”けそ”と”つぺぶ”も、お薬飲んでたおれちゃった」
「みんな、お庭で寝てるんだって。寂しいからって、ママがお花を植えたんだってさ」
「これ?ひゅうが君からもらったの。”つぺぶ”のところにあったんだって」
「うん、たぶんメガネのレンズだと思うよ。透明できれいでしょ?」



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< 名付け親>
最後の段落で< 透明>

おでんのかみさま

ぽちゃん。
「おっと、うまく取れなかったぃ」
「……お前が落としたのは、この大根かな? それともこのこんにゃくかな」
「なんだお前は、突然おでん鍋から出てきて藪から棒に」
「私は、神だ。それもおでんの神様だ」
「そんな中にいて熱くないのかい」
「喰いつくところはそこか。それでお前の落としたのはどっちだね」
「卵」
「そうかこんにゃくか。あれは滑るから箸で掴みづらい」
「卵だって」
「そうか大根か。この大根はよく味が染みているように見えるがな、芯はまだちょっと固いのだ」
「卵だよ、卵」
「そうかすじだったか。これは関東風なので魚の練り物になっとる」
「おい神様」
「ちくわが欲しいのか?」
「た・ま・ご・を・よ・こ・せ」
「……ああ! あーあーあー! 卵な、卵たまご」
「そう、さっきから言ってるだろうが。俺が落としたのは卵」
「それではこのばくだんを」
「ちょっとそのおたま貸せ。俺がとる」
「いやいやそうはいかん。このばくだんはな、大きなボール揚げのようだが、実は中に鶏卵が入っていてな」
「もう一回言ったほうがいいか? 卵だよ、卵!」
「……こっちだって卵が入ってて美味しいのに……」
「ああ、もうわかったよ、そのばくだん、てのでいいよ。それでいいから早くくれよ」
「そうか、お前は素直ないい奴だ。この金のばくだんをあげよう」
「ちょっと待て、金のばくだんじゃ食えないだろうが。普通のばくだんをよこせって」
「それでは用があったらまた呼んでくれたまえ」
「ちょっと待て、どこ行く気だ神様」
「さらばだ」
「ああ、帰りはそっちか。鍋から出て帰っていくのな。……この鍋、意外と高さあるんだが、机の上まで足届くか?」
「ちょっと厳しいかもしれん。すまんが何か踏み台になるものを貸してくれないか」
「おちょこ逆さにしたのでいいか?」
「ああ、十分だ、ありがとう。それではさらばだ」
「あの、神様」
「何だね」
「白滝、取ってもらえますか」


ちゃんちゃん



お題:「卵」「神様」「机」

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