この日の悔恨を糧とせよ
「どこも空いてなかったね」
丸出しの下心をへし折られた男が言う。
「そうねー。仕方ないんじゃない?」
この男に対して、すでに興味がなくなった女が棒読みの言葉を返す。
そう、どこのホテルも満室だったのだ。
ようやく漕ぎ着けた、たぶんイケる(何が)と思ったデート。上野あたりのちょっと気張ったお店で食事をして、事前調査で見つけた日暮里近くの隠れ家的バーで少し飲んで。さあこれからと(何が)意気込んで、ホテルを探してここ西日暮里界隈に来たのはいいが、お目当てのそれはどこも満室であったのだ。やり場のない下心を抱えて、とりあえず路地裏の居酒屋に入ることにした。
バーまではよかったんだけどね、と思ったんだけど。その後がねぇ。詰めが甘いっていうの? そういうことなのよ。
何がいけなかったんだ? 西日暮里にホテルを探しに来たことか? いや、たまたま運がなかっただけだ、そうに決まっている。
あそこまでちゃんとお店選んだのは認める。ものすごい努力の跡が見えるもの。
でもなんでそこでラブホかなぁ。なんかツメが甘くない? シティホテルを取るとかすればアタフタしなくていいのにね。
それに、バーを出たところから顔に「ヤリたい(何を)」って書いてあるし(笑)。そういうのはもうちょっと隠そうよ。
あーあ。次は無いかなぁ。
さめたわー、最後の最後でさめたわー。
次誘われたらどうしよっかなー。
「そろそろ帰ります? 」
「そうねー」
「……ここの居酒屋は、悪くなかったかな。次はここで飲まない?」
さあ、最後はどちらのセリフだ。
男か、女か。
西日暮里