詠唱
都電荒川線は緩やかな坂を下りきった、ここ大塚駅前で大きく左に曲がり、山手線の高架に隠れるようにして停まった。そう多くはない降車客と乗り換え客を詰め込み、小さな一両編成は北へと走り出す。
僕は駅前の広場で、それをぼうっと眺めていた。何もやる気が起きず、電車の中で過呼吸のようになり、どうにもならなくて飛び降りた駅が、たまたま大塚駅だった、というだけなのだが。
会社には体調不良ということで休みを貰った(明日から僕の席はあるだろうか)。とにかく平静を取り戻したいと、駅前の広場にあるベンチで何も考えずにじっとしていることにした。
何本かの都電の上り下りを眺めているうちに、だいぶ心が落ち着いてきた。ふと、口を突いて言葉が出た。
「おーつかー……」
「……かどまーん……」
?! なんだ? どこから聞こえてきたんだ?
「……おーつかー……」
「……かどまーん……」
隣に座った老爺が、子連れの女性が、口々に言い始める。
「おーつかー」
「かどまーん」
ステレオ、サラウンド、5.1ch。右から左から前から後ろから、山手線の高架に反響し、あらゆる所から、
「おーつかぁー!」
「かどまぁーん!」
なんなんだよ、かどまん って!
「おおーつかぁぁぁーー!」
「かどまぁぁぁーーーん!」
大塚