決斗 抄訳
高田馬場駅近くにある、とある雑居ビルに足を踏み入れば途端に、湿気を帯びた熱風と埃っぽさと人熱が支配する異国の街へ迷い込んだような錯覚に陥る。
階を二つ上がり、中程の、商売をやる気があるのかないのか分からないような小さな間口の店に入る。中にいる3、4人の男たちが私の気配に気づき、一斉に視線をこちらに向けた。
「この店の主人はいませんか。他の者に用は無いです」
店の中の男たちはいきり立ち、二人ほどが顔を近づけ品定めをするように睨め回し、残りの者は聞くに堪えないような罵声と下劣な野次を浴びせる。だが、ただ吠えるしか能が無い駄犬のようなこんな奴らに拘う気などさらさらない。
「礼儀を弁えろ、若造。用があるならそれなりの礼を尽くすものだ」
私を囲む男たちをかき分け、品の良い、もう老年と呼ぶに相応しい男が現れた。
「店主ですか? 私に力を貸してもらえませんか」
こちらを、と言ってアミュレットの欠片を差し出す。老人はそれを一瞥し、私の頰げたを一発、拳で力任せに張り飛ばした。
「ならば尚更だ。王族の者なら如何様な相手であれ礼節を忘れるな。……それで、どのような手助けをお望みでしょうか」
「先代の仇が見つかりました、一週間後に、討ちます。王家に仕える一族の長として立会いをいただけますか」
頰をさすりながら、私は用件を伝える。老人はアミュレットのやはり欠片を取り出し、先の欠片に添えた。
「勿論ですとも、それが我が一族の今まである理由です。ーーヤス! ヤスはいるか?!」
奥から、長身の男がのっそりと現れ、老人の脇に立つ。
「これをお連れ下さい。何かの役には立ちましょう。では、一週間後に」
一週間後。
「先の王の落とし胤か。しつこいものだなぁ、おい」
取り巻きを含め、相手は十二人といったところだろうか。対峙するこちらは三人、と、ヤス。
「なぁに馬鹿正直に名乗りを上げてるんですか、もう。後ろからそっと真ん中のやつにずぶりと行けばそれで終わりじゃあないですか」
ヤスが物騒なことを言う。だがその通りだ。奴は隙だらけだったのだ。そこに仕掛ければそれで終わりだった。
「要らぬ苦労をかける。勝ち目はまだあると思うか?」
「そちらのお二方、二人いけますか? いや、ひとり頭で二人はなんとかしてください。無理でもやってもらいます。そう、旦那の脇を固めて。
大丈夫、いけます。旦那は真ん中のだけをね。いいですか、練習通りに。腰だめにして、体ごとですよ。道はあたしたちが開きます、真っ直ぐに行ってください」
相手の手下が四人、しびれを切らして飛びかかる。ヤスが振り返る。白刃一閃。四人は地面に倒れ込む。首筋、脇、内腿付け根に傷を負い、既に動けなくなっていた。ヤスが呟く。
「前言撤回。一人づつ、確実にお願いします。 ……それでは!」
私たちは混乱をする仇に向かい、その距離を一気に縮めていく。
数多の先祖たちよ、我らに力を!