Wildflowers

家のベルが鳴って扉を開けたら
お隣の、幼なじみの君が着飾って立っていた
これからパーティーへお出かけで
ぼくも落ち着かないスーツ姿で君を出迎えた

普段の君とは全く違う
赤いドレス、片口の大きく開いたドレス
輝くストッキングに赤いエナメルのハイヒール
一生懸命お化粧をしたんだ、その努力の跡が垣間見える

少し日焼けした肌と、わずかばかりのソバカスを気にする君
わずかな欠点? 欠点なもんか!
いつもと違う美しい君を見たら
男たちが君を壁の花になんて置いておかないよ

それでも僕は
野の花に囲まれて微笑んでいる君の方が、より好きだ
だから君に一つかみのラベンダーで作った
小さな小さな花束をひとつ、贈ろう

 

 

お題:
girl next door
ラベンダー
わずかな欠点

 

Inspired by 'Wildflowers', Tom Petty

小さな祠

 僕の家から小学校へ向かう途中、みつかばあさん家の曲がり角を左に曲がったすぐ先に、古ぼけた小さな祠があった。こんもりとした雑木林に囲われたそれは、例えば通学の朝であっても、日のカンカンと照り付ける真夏でさえも、そこだけは暗く近寄り難いものだった。気分的なものだが、僕らはその祠の入り口をできるだけ避けて、遠回りをして学校へ向かったものだった。


 いつだったか、寄り合いの流れで父さんと青年会の人たちがうちへ来たときに祠について話しているのを聴いたことがある。母さんには、早く寝なさい、と言われていたのだけれども、なかなか眠れなかったし、それに皆お酒が入って声が大きくなっているので、どうしても耳に入ってきてしまったのだ。
 昔、あの祠の前で男の人と女の人が死んでいたこと。その二人はこの地区の人ではなかったこと。心中だったのではないかということ。そんなことを話していたように思う。そんなことを学校で友達に話したものだから、その祠は僕たちにとって、迂闊に触れてはいけない場所になった。同じクラスの、普段気の強い遥香には、バカじゃないの、と格別に軽蔑の眼を向けられた。それと同時に僕は親から大きなカミナリを落とされた。
 話には当然のことながら尾ひれがついた。死んだ男女は東京から来たことになった。お互いの親に結婚を認めてもらえなくて心中したことになった。レモンに毒を仕込んで、お互いにかじって亡くなったことになった。この世で一緒になれなかったから、カップルを見ると嫉妬をして祟る、ということになった。
 迂闊に触れてはいけない場所。小学生だった僕らにとって、今となってはそれほど大きな意味を持つものではなかった。そう、夏休みに肝試しを行って、勇気、もしくは蛮勇を証明するくらいのものだ。いま考えてみれば皆冷静なものだ。ひとが死んでいた、なんてどこか現実的ではないことだと思っていたんだろう。きっと僕もそうだ。


 肝試しのルールは、男女一組で祠へ行くこと、祠にレモンを供えること。ただそれだけだ。組み分けの抽選は、きっと厳正に行われた。男子それぞれが気になる女の子とペアになったのは単なる偶然だ、そのはずなのだが。僕はよりによって遥香とペアになっていた。
 生ぬるい風に乗って聞こえてくる女の子のかすかな悲鳴、中にはこの世のものともつかない男子の叫び声も混じっていたが、それらが耳に入るたびに呼応して小さな悲鳴を上げ、もうやめようと懇願する女の子たちの前で僕ら男子は強がってみせなければならなかった。たとえ膝ががくがくになっていたにしても、だ。ただ遥香だけは、他の子たちを励ましたり、いつもと変わらずに振舞っていた。
 僕と遥香の番になった。遥香はすたすたと、僕の手を引いて速足で祠へと向かっていく。僕の面目は?
 みつかばあさん家の曲がり角を左に曲がると、他の子たちから僕らの姿は見えなくなる。遥香の足がそこで止まって、祟られるのは嫌だな、とポツリと漏らした。僕は彼女の手を強く握り、祠を目指して先に立って歩きだした。祠の前まで来て、お供えをするはずのレモンをひとつかじって、祟りなんてないよと言って、僕の腕にしがみ付いている遥香に差し出した。そうだ、僕は、この祠にまつわる話のほとんどが、本当かどうか怪しいことを知っているんだ。
 
 みんなの所に戻る時には、遥香はいつもの遥香に戻って、別に怖くなんかなかったよ、とうそぶいていた。その膝が小さく震えていたことは、彼女の名誉のために黙っておくことにしよう。
 僕は悪友たちに哀れみの目をもって迎えられた。あの男勝りの遥香と! 大変だったなぁ。僕は皆の手前、話を合わせておくことにした。

 

 祠には、参加した組の分だけレモンが供えられていた。
 でもその中に一つだけ、かじり跡が二つ付いたレモンがあるはずだ。

 

 その後、気の強い遥香は、なんでもないようなことにまでやたらと僕に突っかかるようになった。僕はそれを受け止めるだけの心の余裕? が出来た気がする。それに彼女に突っかかって来られるのもそんなに悪くない。そして僕と遥香の二人は、あの祠を避けることなく二人で帰るようになった。もちろん必ず祠の前で頭を下げていくのは忘れない。

 

 

 

お題:

曲がり角
証明する
レモン

PowerShellからHyper-Vの仮想環境を、どうこうするのです。

ちょっと考えればわかることなんですが、メモ代わりに書きます。

 

Hyper-V上に構築した仮想環境は、Powershellからコマンドを発行することで、以下のことができます。

  • 起動(Start-VM [仮想環境名])
    :電源ONに相当
  • シャットダウン(Stop-VM [仮想環境名])
    :電源OFFに相当
  • 停止(Stop-VM [仮想環境名] ~Turnoff)
    :電源ブチ切りに相当。まともな運用にはお勧めしない
  • リセット(Restart-VM [仮想環境名])
    :リセットボタン押下に相当。できればやらない方がいい
  • 保存(Save-VM [仮想環境名])
    :休止モードに相当
  • 一時停止/再開(Suspend-VM [仮想環境名])/(Resume-VM [仮想環境名])
    :仮想環境の一時停止と再開。VMだからできる技。

でもできれば、VMの仮想OSの中からちゃんと上げ立てをするのが吉。

※本当はもっといろんなことができます。

 

なお。

仮想環境の状態を知るには、仮想環境オブジェクトのプロパティ, stateまたはstatusを見ることで確認できます。

  (Get-VM -Name [仮想環境名]).State

  または

  (Get-Vm -Name [仮想環境名]).Status

で確認できます。

   追記:

   State と Statusでは表示される内容の意味合いが違いました。

  Stateでは、仮想環境上のOSの稼働状態(上がっているか落ちているか)、

  Statusでは、仮想環境自体の状態(OSの状態は関係ない)、

  が表示されます。

   追記ここまで。

  

最後に。

PowerShellは右クリックから「管理者として実行」をすること。

 

 

役に立つ人がいればこれ幸い。

 了

信仰の始まりというものは

ラスベガスからの帰り、荒野の上空を飛ぶ飛行機。

見たいものと驚きの充足感と、

嫌な日常に戻る憂鬱さを抱え、その飛行機の中にいる。

そのとき

 窓の外を眺めた時に見えた、機影を囲む虹。

 ブロッケン現象、単なる科学的現象、

 科学的現象だと分かっているけれども。

 

信号待ち。

思い通りにならない苛立ちを抱えて

持ち帰りのピザ二枚を持って見上げる空。

どんよりと黒く垂れこめる雲。

冷たく、湿気を含んだ強い風。

顔を上げ、見上げた先に

 ぽっかりと空いた雲間から見える青空。

 実った麦のように、黄金色に輝く雲の縁。

 地に射す光、ヤコブの梯子。

 

人が神を信じる、なんてのは

こんな時なのかもしれない。

きっと理屈ではないのだ。

 

だがすまない、

もう少しの間、距離を置かせてくれ。

 

選択

 さて、どうしようかと考えている。

 上手くいかない人生を呪ってヤケ酒を喰らい、いつしか深酒となり、終電を逃した深夜、知らぬ街で道に迷ってしまった。
 迷った道の突き当り、三差路となった何所とも知らぬ分岐点に、
黒づくめのスーツを着て、
黒い帽子をかぶった男が、
訳ありな笑みを湛えて、
立っている。

男は言った
「君には選択権がある
 左の道を行けば、過去から人生をやり直せる
 右の道を行けば、富と名声が得られるが、今までのもの全てを失う
 どちらにも行かなければ今までと何も変わらないただし、1kgの金をやろう
 決めるのは今のうちだ
 未明を過ぎれば、日が昇れば、すべての選択肢は意味を為さない
 どうするかい?」

 なぜこの胡散臭い男の言葉をそのまま信じたのかは分からない。とても自然なことだと思えたのだ。悩むことなどあるものか。どうせ今など碌なもんじゃない。右だ、右の道だ。
 しかしここにきて、幾らか酔いが醒めてきた。過去からやり直すのも悪くないと思えてきた。嫌なことが多かったけれど、いいこともあった、今でも友達でいてくれるいい奴もいる。それまですべて切り捨てるのか。

 僅かな星の瞬く夜空はいつしか群青色を帯びていた。
 さらに酔いが醒めてくる。ホルムアルデヒドがひどい頭痛を誘う。
 右か?
 左か?
 考えるだけで頭痛はひどくなる。
 ひどくなる頭痛はまた考えを短絡化させる
 右だ。いや左だ。
 金? 金塊?

 群青色はいつしか藍となっていた。長く引き伸ばされたような灰色の雲に、少しだけ赤みが差している。日が昇るのも近い。

「どうしますか? 残りの時間はわずかですよ」
 黒づくめの男は慇懃に言い、こう続けた。
「昔あなたに、似た質問をしたことがあるんですがね。同じ選択をしたらどうですか、意気地なしさん? いや選択すらできませんか」

 そうか、思い出した。
 お前は昔、駅にいたな。ひとをからかって楽しいか、この悪魔め。

「悪魔! まさしくその通り。ただ十字路じゃなくて三差路なのが気に入りませんけどね。で、どうしますか?」
 貼り付けたような笑顔で悪魔は問うてきた。俺はポケットから小銭入れを取り出し、一枚、適当につかんで宙にはじき上げた。
 表なら右へ、裏なら左へ。


……こんなことがあるのか。投げ上げたコインは、路上に突き刺さった。
 どうするんだ、これ。


 夜が明けた。
 俺のポケットには蓋が空いたままの小銭入れと、1kgの金塊が入っている。
 悪い選択じゃない、そう思う。

 


「小銭入れ」
「未明」
「分岐点」

 

#単発三題噺

 

footsan.hatenablog.com

不貞の精算

「うん、私は平気だから。気にしてなんかいないよ」
 隣に腰掛けている彼女は、僕の方を見ずにそう言った。

 

 つい先日、浮気相手がうちに乗り込んできた。僕の留守を狙って。その日家に帰ると、彼女は感情もなく淡々と、僕にその事実だけを伝えた。怒ることも、なじることもせずに、だ。必死な言い訳と挙句の土下座。その脇を、彼女は何事もなかったように寝室へ向かった。

 その晩僕は、僕たちは義務のようにセックスをした。贖罪だろうか、だが彼女はセックスが好きではない。

 

 その週の土曜日彼女が不意に、公園へ行こう、と切り出した。大きな公園がいい、新宿御苑とか。僕に選択権なんかない、いいね、ぜひ行こう。それじゃ5月5日の端午の節句にしないか、と僕は提案をした。そう、それならまだ一週間はある。それまでには浮気相手と手を切らなければ。

 4月30日に尋ねた時には、話を切り出すことができず。そのまま、2度セックスをした。

 5月2日に尋ねた時には何とか話を切り出したのだが、怒り、泣く浮気相手をなだめているうちにセックスをしてしまい、話はうやむやになった。

 5月4日。もう後はない。今日こそしっかりと手を切らねば。
 呼び鈴を何度か押したが、浮気相手の返事はなかった。仕方なく家に帰ると、彼女はいつになく嬉しそうに、僕の帰りを待っていてくれた。明日が楽しみで仕方がない、今日は早く寝ましょう。
 その日のベッドの中で、付き合ってから初めて彼女自身からセックスを求め、僕の愛撫に応え、絶頂を迎えていた。僕は枕元の水を一口飲んで、いつになく深く眠った。

 

 翌朝、僕らは新宿御苑へと向かった。途中、老舗の和菓子店でよもぎの柏餅を5つ買っていった。バックパックを背負った彼女は、とても嬉しそうだった。

 新宿御苑は、美しかった。青く澄んだ空に新緑のコントラスト、萌え出る若芽、タンポポの鮮やかな黄。すべてが美しかった。芝生にレジャーシートを敷き、柏餅を食べ始めた。よもぎの青い香りが鼻の奥をくすぐる。
「うん、私は平気だから。気にしてなんかいないよ」
 隣に腰掛けている彼女は、僕の方を見ずにそう言った。

 僕は気付いていた。鼻の奥をくすぐるのは、よもぎの青い香りだけではないことを。新宿御苑に着いてから少しづつ異臭がしていることを。彼女のバックパックの底から、少しづつだが何かどす黒いものが漏れ出ていることを。
 僕の背中を冷たいものと電流が走り、耳の奥がキーンとなり始めた。
 僕は、幸せそうに柏餅を食べている彼女に話しかけた。

 

「ねえ、そのバックパックに入っているものは何か、聞いてもいいかな」

 

 

#単発三題噺

バックパック

端午の節句

新宿御苑

#チープな戦闘描写を自己流にアレンジ選手権

「けっ、その程度かい」
 巨大な肉包丁をだるそうに下げ、『悪食の王』はシャープナーを忌々しげに壁に打ち付けて、俺の方を睨みつける。
 剣の技も糞もない、只々力任せに肉包丁を二撃、三撃と打ち据えてくる。それを避け、捌き、隙を見て『悪食の王』の肥満した腹に剣で斬りつけ、突く。
 だが、脂肪の層とそれを覆う革鎧のような硬化した皮膚が傷を負わせることを拒んでいた。どうすりゃいいんだ、こんなもの! 俺は頭の片隅で神を呪った。やつの赤く光る牙すら忌々しい。
 
 ……赤い光? 
 
 そういや今までの奴ら、必ずどこかしらが赤く光ってやがったな。そして、その光の場所が”奴らの弱点”だった。……ひょっとして俺は、敵の弱点が赤い光になって見えているんじゃないか? だとしたらこいつの弱点は牙だ、幾人の同胞を噛み殺したか分からない、忌々しい二本の牙だ。
 神様、さっきのは撤回だ。あんた最高だよ、この”神の眼”に接吻を!

 おれは、含み笑いをする。が、次第に笑みは大きくなり、いつの間にやら呵呵大笑と呼ぶに相応しい大声となる。
「どうした、打つ手がなくて気が触れたか?」下卑た笑いを浮かべ、『悪食の王』が煽り立てる。
「読めた、読めたよ、……お前の弱点」俺は大剣を納め、厚刃のナイフを逆手に構える。

 何を言ってやがる! と叫んで『悪食の王』は芸もなく、肉包丁を最上段から力任せに振り下ろす。それを半身に躱し、奴の肥満した腹を足場にして駆け上がり、首筋にしがみ付く。

「よう、テメェの息は臭ぇな」

『悪食の王』に物を考える暇を与えず、ナイフで二本の牙を抉り取る。『悪食の王』は断末魔も斯くやという叫び声を上げ、抉られた牙の跡からはいやな臭気を伴った、糞色の気が流れ出す。

 もう『悪食の王』はそこにいない。牙の能力で硬化していた肌は見る影もなく、あの巨大な肉包丁は、それを支える筋力すらなくなっているのか手元から滑り落ち、がらん、と大きな音が部屋の中で反響した。
 俺は大剣を構え直し、ゆっくりと奴に近づく。果たして、奴が最後に見た俺の顔は、どんなものだったろうな。

「じゃあな、哀れな『悪食の王』。……これは、アランの分だ」
 俺は、今まで餌食となった同胞の名を一人一人呼びながら、牙を失った化け物を斬り付け、突き通し、抉る。返り血が籠手を、鎧を、顔を染める。大剣にこびり付く黄色い脂肪は、奴が持っていたシャープナーで落とせばいい。

……

「あとは、『邪淫の王』『暴虐の王』『欺瞞の王』、か」
 俺は溜息を吐く。”能力”ってやつに気付いちまった。相手の弱点が分かる。剣技なら負ける気はしない。ほぼ無敵じゃねぇか。これで四天王退治か。面白くも何ともねぇ。

「まったく、強すぎるのも困りものだ」

俺は、”神の眼”を封印した。

 

 

 

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