ミネルヴァに仕える

「池袋ってさ、何かがおかしいんだよね。どこかチグハグなんだよ」 サンシャインシティの地下で買ったブルーシールの紅芋ソフトをせっせと口に運びながら、君が言う。チグハグ。チグハグねぇ。だいたい何を言おうとしてるかは分かる。 「そう、空間の歪みが…

相棒

目白の駅まで来い、って一体なんだってんだよまったく。今日は雨になるっていうからあんまり出かけたくないんだけど。どうしても頼みたいことってなんだよ、そういうのは勿体つけないで先に言ってほしいよな。 改札を出て右手、いつもの待ち合わせ場所にヤツ…

決斗 抄訳

高田馬場駅近くにある、とある雑居ビルに足を踏み入れば途端に、湿気を帯びた熱風と埃っぽさと人熱が支配する異国の街へ迷い込んだような錯覚に陥る。 階を二つ上がり、中程の、商売をやる気があるのかないのか分からないような小さな間口の店に入る。中にい…

チャメ。

まるで外国のような、と言われるのと、まるで異国のような、と言われるのでは受ける印象がいくらか違う。前者にはアングロサクソン的欧米感があり、後者にはラテン的なもの、あるいはもっとエキゾチックな響きを孕んでいる。新大久保は、明らかに後者だ。 韓…

手紙

前略 もう随分とお姿を見かけておりませんが、大事なくされてましょうか。 思えば、新宿で働き始めた、というお話をちらと伺ってから随分と日が経ったように思えます。日が燦燦と降り注ぐ日中であっても、どこかに影を抱えているようなあの街はどこかあなた…

ウグイス

”ウグイスはカナリヤに一目惚れ また会いたいと思っていたら 反対側でまた出会い 束の間並んで 共に飛び となり同士となったとさ でもそれは そこまでのこと カナリヤは アカショウビンに連れられて 離れ離れの泣き別れ ウグイスはただ一羽 また会えるときを…

出られるのか

ホームは人で溢れている。到着する列車から吐き出される人、人、人。それを受け止めるのは、島式ホーム一本だけ。改札口は二つあるにはあるが、どちらも人が掃けていく気配がない。 そして、その真っ只中に、俺はいた。 二進も三進も行かない、とはこのこと…

恋文

婆ちゃんが、渋谷に連れていってくれ、と言っていたので望みを叶えてやろうと準備を始めた。母はやめておけ、と言っている。人混みが何かストレスになってよくないのでは、と思っているようだ。そんなことはないよ、婆ちゃんを信じなきゃ。行きたいって言っ…

街の在り方なんてのを、恵比寿を通して考えてみた、のかもしれないです、か?

恵比寿になんて滅多に来ることはないもんなぁ。一度何かの飲み会で、それもなんだかスカした店だったな、来たくらいで、あとは六本木に行くときに日比谷線に乗り換えるくらいなもんだ。それも大江戸線が出来てからは乗り換えですら立ち寄る事もなくなった。 …

かむろ坂

中古で買った軽自動車のワンボックスに彼女を乗せて、僕は山手通りを南に下っている。商用の軽自動車だからシートはガチガチで、装備も辛うじてラジオがあるくらい。エアコンがついているだけマシ、というものだ。仕方がない、これが一番安かったんだから。…

それ相応の……

「さて、君に対する処罰なのだが」 「……はい」 「君の行なったことは、私に対する明らかな背信であることは認めるね?」 「はい」 「とは言え、それほど悪質なものではない。……近所の電柱に、私を名指しで“お前の母ちゃんでーべそ!”というチラシを貼っただ…

Chase the Ghost

天王洲あたりから、そいつはピタリと着いてきた。自らのマシンの、四気筒の甲高い咆哮の奥に、僅かに、だが確かに単気筒の力強い鼓動が混じって聞こえてくる。 バックミラーに目をやると何も見えない。が、上手く死角に入っているのだろう、時折ゆらゆらと影…

スタンピード

八月の、とある日。 日は燦々と真上から降り注いで影を減らせしめ、アスファルトは陽炎を立ち昇らせる、そんな日。 品川駅港南口を、十数頭の牛たちが駆け抜けた。 インターシティ側から港南口の駅前ロータリーを右に折れ、旧海岸通りへと向かって、一群の黒…

チェリオ オゴレヨ

田町駅から高校まで、だいたい15分くらいかかっただろうか。……なぜ学校ってのは駅前に作らないかな。上に進学するほど最寄駅から遠くなってないか? というのはさておき、だ。田町辺りだと同じ駅を使うのは当時、実質男子校(工業高校である)が1つに我らが共…

失うもの

「本当にここまででいいのか?」 「うん。むしろここまでの方が」 「そういうもんかな」 「そんなものでしょ、今までだってずっと」 「なんだったら展望デッキから飛行機が飛び立つまでいてもいいんだぜ?」 「何言ってんのよもう、あ、ちょっと端に寄って。…

烏森口、三次会、夜

この駅の周りにこれだけ飲み屋があるってことは、この周辺にどれだけの会社があってそこに働く人がいるか、っていうことが、それだけで計り知れるってもんじゃないか。そしてどれだけのサラリーマンが憂さを晴らそうとしているのかってことだよ。 それが証拠…

映画の街、だがそれはここじゃない

新幹線は東京駅へと滑り込むために、この辺りではかなりゆっくりと走る。有楽町駅のホームで電車を待っていると、その新幹線の中で席を立ち網棚から(もはや“網”ではないのだが)荷物を降ろし、下車する準備をする人たちがよく見えるのだ。 その前を、東海道線…

発車のベル

東京駅の12番ホームと13番ホームは、西へ向かう寝台特急が発着するところで、鉄道が好きだった(いや今でも好きだよ?)僕にとっては特別な場所だった。 列車の中に食堂がある、途中で切り離して別の行き先に向かう、24時間以上かけて西鹿児島駅まで走る列車が…

山手線ゲーム!

山手線ゲームを始めます。 自身に課したルールは以下の通り。 1. 山手線29駅を絡めた「何か」を書きます。 ※駅そのものとは限らず、周辺の名所旧跡パワースポット、その駅だ、と分かるものを入れます、とエクスキューズ。 2. 文章、詩歌、ウンチクなんでも良…

趣味なんだからいいじゃないのよ

朝八時。 俺は駅のベンチに座っている。 請負先の仕事は先週で契約が解除になった。 同居人には言い出しづらく、仕事に出かけるフリをして今日に至る。 俺は駅のベンチに座っている。 駅のベンチに座って、行き交う女性の脚だけを眺めている。 80デニール。…

新しい人生

街の南の外れ。橋を渡った辺りに、移民たちが集まって暮らす場所があった。ひっそりと、と言いたいところだが、千人からの人間が集まっているので、貧しいながらも活気に溢れている。一つの町と言ってもいい。 その町の中心に、目指す市場があった。その市場…

Silent Sun

不思議な空だ。覗き込むと太陽は確かに輝いている。が、肉眼で直視できるっていうのはどういうことだ。まるで濃いフィルタの上から更にPLフィルタを重ねたような。ただただ明るい円が空にある。プロミネンスですら見えるんでないか、という気がする。 そして…

シャッター

カンボジアに行ったときの話なんだけど。 あ、そんなに大した話じゃないから気楽に聞いといて。 で、カンボジアに行ったときの話ね。首都のプノンペンってさ、正直言ってそんなに観光するところ無いのよ。王宮とか博物館とかそんなところでさ。 街外れに、キ…

ミッドシップ!!

「へー、クルマ持ってるんだー。ねえねえ、どんなのに乗ってるのー?」 「えーとね、2人乗りなんだけど、」 「2人乗りなの? 」 「そう。それでね、エンジンがミッドシップでね」 「ミッドシップってなに?」 「大雑把にいうとエンジンが後ろ側についてて、…

神の住まう島

本島から少し外れた沖合に、小さな島があった。 この島は、神様の住まう島。 太古に2人の神様が降り立った場所。 その島の真ん中、野原にぽつんとある石に、”祖“は1人腰掛けて空を見上げていた。 ”祖“は、人間のことを考えた。 それにしても人間は、しぶとい…

ふっとさんのくせにえらそうにかたっている

ちょっとばかりどうでもいいお話を。 こう、ダァーッと文章を書いているときに、なにかザラついた感じを受ける時はありませんか? なんて言うんでしょうかね、逆立った棘に引っかかるような。大概、書いた文章を読み返したときに語感がよろしくなかったりす…

3. Patriot

「ああそうだよ。俺がやった。間違いない。でもなあ警部さん、それに何の問題があるんだ? あいつら違法移民はこの街にやってきて、俺たちの仕事を奪っていった。通りにどれだけ仕事にあぶれた連中がいるか、警部さんだってわかってるんだろう? 「警部さん…

2. Exiles

「お待たせしました、私は移民局のマシュー・テイラーと言います。あなたの担当になりました。どうぞ気軽にテイラー、と呼んでください。 「これから難民申請の手続きを行うにあたって、いくつか伺っていきます。まずはここに至るまでの経緯を聞かせてくれま…

1. Mosque

夜の礼拝が終わり、モスクには静けさが戻った。人々は日没後のささやかな夕食を楽しみに各々の家へと散っていった。 私は、ひと気のなくなったモスクの中へと入っていった。勿論、導師の許可はいただいている。 ラマダン月の15日目、満月は雲ひとつない深い…

無題

お前の ブルースを聴かせて くれないか