映画の街、だがそれはここじゃない

新幹線は東京駅へと滑り込むために、この辺りではかなりゆっくりと走る。有楽町駅のホームで電車を待っていると、その新幹線の中で席を立ち網棚から(もはや“網”ではないのだが)荷物を降ろし、下車する準備をする人たちがよく見えるのだ。 その前を、東海道線…

発車のベル

東京駅の12番ホームと13番ホームは、西へ向かう寝台特急が発着するところで、鉄道が好きだった(いや今でも好きだよ?)僕にとっては特別な場所だった。 列車の中に食堂がある、途中で切り離して別の行き先に向かう、24時間以上かけて西鹿児島駅まで走る列車が…

山手線ゲーム!

山手線ゲームを始めます。 自身に課したルールは以下の通り。 1. 山手線29駅を絡めた「何か」を書きます。 ※駅そのものとは限らず、周辺の名所旧跡パワースポット、その駅だ、と分かるものを入れます、とエクスキューズ。 2. 文章、詩歌、ウンチクなんでも良…

趣味なんだからいいじゃないのよ

朝八時。 俺は駅のベンチに座っている。 請負先の仕事は先週で契約が解除になった。 同居人には言い出しづらく、仕事に出かけるフリをして今日に至る。 俺は駅のベンチに座っている。 駅のベンチに座って、行き交う女性の脚だけを眺めている。 80デニール。…

新しい人生

街の南の外れ。橋を渡った辺りに、移民たちが集まって暮らす場所があった。ひっそりと、と言いたいところだが、千人からの人間が集まっているので、貧しいながらも活気に溢れている。一つの町と言ってもいい。 その町の中心に、目指す市場があった。その市場…

Silent Sun

不思議な空だ。覗き込むと太陽は確かに輝いている。が、肉眼で直視できるっていうのはどういうことだ。まるで濃いフィルタの上から更にPLフィルタを重ねたような。ただただ明るい円が空にある。プロミネンスですら見えるんでないか、という気がする。 そして…

シャッター

カンボジアに行ったときの話なんだけど。 あ、そんなに大した話じゃないから気楽に聞いといて。 で、カンボジアに行ったときの話ね。首都のプノンペンってさ、正直言ってそんなに観光するところ無いのよ。王宮とか博物館とかそんなところでさ。 街外れに、キ…

ミッドシップ!!

「へー、クルマ持ってるんだー。ねえねえ、どんなのに乗ってるのー?」 「えーとね、2人乗りなんだけど、」 「2人乗りなの? 」 「そう。それでね、エンジンがミッドシップでね」 「ミッドシップってなに?」 「大雑把にいうとエンジンが後ろ側についてて、…

神の住まう島

本島から少し外れた沖合に、小さな島があった。 この島は、神様の住まう島。 太古に2人の神様が降り立った場所。 その島の真ん中、野原にぽつんとある石に、”祖“は1人腰掛けて空を見上げていた。 ”祖“は、人間のことを考えた。 それにしても人間は、しぶとい…

ふっとさんのくせにえらそうにかたっている

ちょっとばかりどうでもいいお話を。 こう、ダァーッと文章を書いているときに、なにかザラついた感じを受ける時はありませんか? なんて言うんでしょうかね、逆立った棘に引っかかるような。大概、書いた文章を読み返したときに語感がよろしくなかったりす…

3. Patriot

「ああそうだよ。俺がやった。間違いない。でもなあ警部さん、それに何の問題があるんだ? あいつら違法移民はこの街にやってきて、俺たちの仕事を奪っていった。通りにどれだけ仕事にあぶれた連中がいるか、警部さんだってわかってるんだろう? 「警部さん…

2. Exiles

「お待たせしました、私は移民局のマシュー・テイラーと言います。あなたの担当になりました。どうぞ気軽にテイラー、と呼んでください。 「これから難民申請の手続きを行うにあたって、いくつか伺っていきます。まずはここに至るまでの経緯を聞かせてくれま…

1. Mosque

夜の礼拝が終わり、モスクには静けさが戻った。人々は日没後のささやかな夕食を楽しみに各々の家へと散っていった。 私は、ひと気のなくなったモスクの中へと入っていった。勿論、導師の許可はいただいている。 ラマダン月の15日目、満月は雲ひとつない深い…

無題

お前の ブルースを聴かせて くれないか

I am a rock

冬の日、深く暗い師走の日僕は一人ぼっちだ窓から下の通りを見つめている新雪が静かに降り積もっていく僕は岩、僕は島だ 壁を築いたんだ鉄壁の要塞をね誰も寄せ付けやしないんだ友情なんていらない、苦痛なだけじゃないかそんなのお笑い草だし、見下げてしま…

隙間

恋愛というのはきっと 相手の隙間に自分自身を埋め込むことなんだ 当然、ぴったり嵌ることなんて滅多にない ガタついたり、大きすぎて入らなかったり だから僕たちは時間をかけて お互いを盛ったり削ったり そうしているうちに僕たちは疲れて 元はどんな形だ…

十字架の上で訴えたものは - 主はイエスを見捨てたもうたか -

エリ・エリ・ラマ・サバクタニ。 主よ、主よ、どうして私を見捨てられたのですか。 ご存知かとは思いますが、これは磔刑に処されたイエス・キリストが、その十字架の上で言ったとされる言葉です(マタイ福音書、マルコ福音書)。神の子であるはずのイエスが…

まじっくすぱいす

「……青年、そこの青年よ」 「はい、なんです?」 「見たところ悩み事があるようだな」 「わかりますか、実は私は料理人を目指しているんですが」 「ふむ」 「どうにもセンスがないらしくて……」 「センスとな」 「ええ。包丁などの技術は他の人たちより優れて…

儚い

ステージの上でスポットライトを浴びている間、彼はそこに存在する。 舞台上のライトが落ち客電が灯ると、彼はこの世界から消えてしまう。 ステージの上と、人々の記憶の中だけで、彼は生きている。 人はそれを、もしかしたら幻影と呼ぶのかもしれない。 そ…

お客さまは

「よいですか皆さん、接客業に従事する上では、お客様を第一に考えなくてはなりません。“お客様は神様”、この思いを常に忘れないように。よろしいですか?」 「わかりました。ただ……」 「ただ、なんでしょう?」 「うちは代々、日蓮宗の檀家なんです」 「へ…

あとがきをかえて

とある公園。 写生をする児童とそれを見回る先生。 先生がひとりの児童に話しかける。 その1先生 :「冬真君は何を書いているんだい」冬真 :「ええっとね、ふん水と、おさんぽしている犬と、美術館」先生 :「他には何を書いたんだい?」冬真 :「お花とね…

地口の旦那 三たび

「 ああ、そこの小僧さん、……そうそう、そこのアタイだよ。ちょっとこっちへおいで。何もそんなに硬くなるこたァないよ、お小言喰らわせようって訳じゃァないんだ。ちょっと話し相手になってもらおうかと思ってね。お小言じゃァくて独り言ダァな。なに、同じ…

地口の旦那 ~ 番頭さんのお話

「お呼びですか、大番頭さん」 「ああ、こちらへ。……いやそんなにかしこまらなくていいですよ、上下の関係じゃあないんですからね」 「恐れ入ります」 「で、どうだい、ここのところの若旦那の様子は」 「大旦那様が臥せってからは。だいぶ参っておられます…

Wildflowers

君は 野の花の中にいるのが似合う君には 海へと漕ぎ出す小舟が似合う漕ぎ出しなよ 時間なんか忘れて君は きみが自由を感じるところにいるといい 駆け出しなよ 恋人を見つけにさ行ってしまいなよ キラキラした新しいところへボクは今まで見たことがないんだ君…

あなたはだあれ

父の三回忌で実家に帰ることになった。今時、手紙一通だなんて、うちの家族もどうしたもんだか。家族なんだから、電話くらい入れるだろうに。まあ、半分家出同然で飛び出してきたので、わだかまりでもあるのかもしれない。 実家は、山間の小さな村落にある。…

Paranoid

彼女とは終わったんだだってボクの想いの支えになれなかったからねみんなボクを狂っているって思ってるボクはいつだって不満だらけにしてるからね 一日中考え事をしているけどでもボクを満足させるものは何一つないね考えるに、ボクを鎮めるナンカを見つけら…

友を訪ねる

八月も旧盆を過ぎる頃。暑さもその表情を少しづつ変えていく。ぢりぢりと灼きつける日差しに変わりはないが、重く纏わりつく湿気は薄れ、次第に空の青も深く高くなり、絹雲のひとひらふたひらが、または寄り添い、または千切れてゆっくりと空を渡っていく。…

豊漁

ある日。 シーラカンスが大量発生した。どのくらい大量かというと、一度網を刺せば小型船では捌ききれないほど。海を覗けばその深い藍色の中、ごつごつとした鱗を輝かせた巨体が見渡す限りに群れを成しているほど。 すぐに各国の海洋学術調査隊が派遣され豊…

ゲームの時間

司会:「”神経衰弱ポーカー”、開始しましょう。それでは先攻から」 先攻の男、任意に2枚の写真を選ぶ。1枚目には背広姿の30代男性、2枚目にはちょっとチャラい男性(色黒)。 先攻:「……同年齢、彼女アリ、同棲中」司会:「ジャッジ、スリーペア! それでは…

ボディショット

「お兄さん、もう一杯行こー!」 ビアシンハーがまた一本開けられる。お兄さん、と呼ばれた男はまんざらでもなさそうに瓶ごと口につける。「ただ飲むだけじゃつまらないな。なあ、口移しで飲ませてくれよ」 だいぶ酔いが回ってきたのか、男は下品な冗談を口…